わかい頃、水谷豊が
「兄貴ぃー!」って呼んでいた。
そこからショーケンこと萩原健一は
ずっと我らの兄貴ぃー!でもあった。
ヤザワではない。
高倉健でもない。
そもそも芸能人に憧れるガラではないし、
まして同性なのに。
が、唯一ショーケンだけにはたそがれた。
グループサウンズでおかしな衣装を着て、
あまり上手くもない歌を歌っていたが、
あれは彼の不本意だった。
よって解散を申し出たのもショーケン自身。
彼はそれ以前にブルースのバンドを組んでいて、
その道へ行きたかったらしい。
が、彼はブルースを目指さずに、
役者へ転向する。
これが良かったんじゃないかと思う。
役どころとしては「傷だらけの天使」のおさむ、
「前略おふくろ様」のサブが印象深い。
前者は、ショーケンのアドリブだらけ。
後者は、倉本聰の台詞とあって、
一字一句、台本のままだという。
黒沢映画の他、多彩に活躍したが、
やはり妙に素人っぽかった初期の頃に、
彼の地が滲み出ている。
倉本聰の作品は、彼らしくないという
意見もあるが、あれもショーケンのある一面と
言えなくもない。
結構ナイーブなところが発端となって、
騒ぎを起こしているし。
ショーケンが追求したのは、
ダンディーとか、男の中の男とか
そんなんじゃない。
一見、かっこ悪いと思わせる。
ちょっと親しみやすくて憎めない。
しかし、ふとした瞬間に、
寂しそうな表情を浮かべたり、
とてつもなく凶暴だったりする。
そこがヤザワでも健さんでもなく、
独特かつ不思議なオーラを放っていた。
実際、彼はそのような性格だと思う。
ずっと悪のイメージがつきまとっていた。
まあ不良といえばそのようにみえなくもない。
しかしその程度。
彼をウォッチしていて気づいたのは、
妙な正直さが仇となって、
逆に悪評が広まったり、
その風貌や態度から、
ネガティブな印象をもたれたりと、
随分とバイアスがかかった部分がある。
或る人たちにとっては、
良いところを探すのが
なかなか難しい人ではある。
こういった人間は、
我らの身の回りにも数人いて、
それは身近に付き合ってみないと、
みえてはこない。
たとえば、意外に正直であるとか、
思いやりがある、
誠実であるとか…
ガキの頃からの知り合いに
こういうのが割と多い。
みんな結構付き合える。
いや、いまも付き合いは続いている。
共通点は、みな一様に偉い人間や
偉そーに振る舞う奴には
徹底的に逆らう、というところ。
もうひとつ共通点があった。
心根がやさしいこと。
チンピラと違うところは、
カッコよく言えば、
強きを挫き弱きを助ける。
なのに、どうでもいいことで、
弱音を吐いたり…
こんな姿が、ショーケンにも投影される。
彼は何回も捕まったし、
結婚も離婚も数回繰り返した。
けれど、それらを軽々と
飛び越えてしまう魅力が、
彼には備わっていた。
ショーケンは実は、
ずっと映画の裏方をやりたかったらしい。
脚本とか、演出とか。
意外。
彼が亡くなる8日前の写真が、
「萩原健一最終章」の最期のほうに載っていた。
その写真は、
奥さんが隠し撮りした一枚。
そろそろ死期が迫っている。
本人も、死が迫っていることを
うすうす感じている。
ほの暗い部屋で机の灯りを点け、
彼の丸まった背中がみえる。
机に向かって、ずっとシナリオを、
声を出して読んでいたという。
我らの知る最期の男の背中が、もの悲しい。
人生を、
疾風のごとく通り過ぎた男。
やはり、最期までショーケンだった。
我ら、こんなに強くはなれないけれど…
合掌