○○恐怖症がつくりだす妄想がヤバい!

 

視界のひらける場所に悪いところはない。

個人的な見解だけどね。

山のてっぺん、大海原をのぞむ見晴台。

飛行機の窓から眺めるサンセット。

ね、なんかいいでしょ?

 

反対に、谷底とか窪地とか洞穴とか地下施設とか、

そういう場所が僕はぜんぜん好きじゃない。

まあ嫌いですね。

いや、恐怖さえ感じることもある。

 

最近、あそこだけは通りたくないなと感じたところは、

東京湾アクアライン&海ほたる。

ま、ひとことで言うと信用ならないトンネル&パーキングだ。

一応、自分がクルマでアクアラインを走る想定で、

リアルにイメージしてみた。

 

うん、クルマがどんどん進むにつれ、下り勾配になってゆく。

おお、海の深いところを走っているらしい。

まわりを見るとキレイな照明がキラキラと輝いている。

トンネルの中は明るくて地上の真昼のようだ。

なかなかいいじゃないか。

快適なドライブだなぁ。

 

ある箇所を通過するとき、トンネルの壁にシミのようなものが、

ふと目にとまった。

なんだろうなぁ、こんなピカピカのトンネルなのに…

まあいいや。

時速70キロで僕のクーペは快適に走っているし。

 

あれっ、またシミのようなものをみつけた。

そのシミは徐々に数を増し、

やがてトンネルの天井あたりから、

ポツポツと水滴が落ちてくるようになった。

 

その水滴は徐々に頻繁となり、

僕はやがてワイパーを動かすことにした。

おや、前方でクルマが渋滞しているぞ。

減速して近づくと、数人がクルマから降りて、

右往左往しているではないか。

僕もクルマを止めて表にでる。

 

と、誰かの叫んでいる声が聞こえた。

「この先でトンネルが崩落しているらしい、

緊急電話はどこだ!」

「なんだって!」

突然、僕の背中が硬直するのがわかった。

さらに、その後ろから走ってきたご婦人ドライバーが、

甲高い声でこう叫んだのだ。

「もうこの先は完全に水没しているわよ。

水がどんどんこっちに押しよせてきているのよ」

そのご婦人の足下は、すでに水に浸っていた。

僕とうしろを走っていたドライバーは

反射的にいまきたトンルネを戻って走り始めた。

大勢の人間たちもわあわあ言いながら、

いま来たトンネルを走り始めたのだ。

 

しかし、そちらからも轟音が響いている。

そして勢いづいた怒濤のような水が…

 

わあ…

○○恐怖症の僕が考えると、

あの楽しいであろうアクアライン&海ほたるも、

こんな悲惨な結末になってしまう訳。

 

さて次回は、

僕もたまに必死で乗っている地下鉄新宿線の

壮絶パニックストーリーについてお話しますね。

はぁ、いい加減にしろってとこですかね。

 

話は冒頭に戻るけれど、

視界のひらける場所に悪いところはないと

僕は常々思っている。

山のてっぺん、大海原を望む見晴台。

飛行機の窓から眺めるサンセット。

 

ね、○○恐怖症の妄想だけど、

こうした話の後だと、

視界の良いところって

なんかいいイメージでしょ?

 

ブルーレモンをひとつ リュックに詰めて

 

君の好きなブルーレモンをひとつ

リュックに詰めて僕は町を出たんだ

 

あの町では永い間もがき苦しんだが

結局 退屈な日々は寸分も変わらなかった

 

とても憂鬱な毎日

それは安息のない戦いと同じだった

 

いま思えば平和に見せかけた戦争は

すでに始まっていたのだろう

 

僕は町で予言者のように扱われた

それは来る日も来る日も

これから先もなにも起きないと

僕が町の連中に断言したからだ

 

僕にしてみればすべてが予測可能だった

同じ会話 同じ笑い あらかじめ用意された回答

そして疑問符さえも

 

気づいたときすでに戦いは始まっていたのだ

それはひょっとして町の時計台の針が

何年も前からずっと動いていなかったことに

関係があるのかも知れない

 

不思議なことに

そのことには誰も気づいてはいなかった

 

僕らは町に閉じ込められていたのだ

 

どんよりと曇った夏の日の夕暮れ

僕は町の図書館の地下室の隅に積まれていた

破けた古い地図とほこりに汚れた航海図を探り当てた

それをリュックに詰めて町を出たのだ

 

思えば 町の境には高い塀も鉄条網もない

しかし 誰一人そこから出る者はいなかった

そして外から尋ねてくる者も皆無だったのだ

 

 

町を出て二日目の夜

僕は山の尾根を五つ越えていた

途中 汗を拭いながらふと空を見上げると

青い空がどこまでも続いていた

それはとても久しぶりの色彩豊かな光景だった

 

そして相変わらず僕は

誰もいない一本の道を歩いている

 

この道はどこまでも続いているのだろう

 

道ばたに咲く雑草の葉の上の露が

風に吹かれて踊っている

すぐ横をすっとトンボが過ぎてゆく

 

光るその羽を見送ると

僕はようやく肩の力が抜けた

 

ため息がとめどなく口を吐く

 

歩きながら僕は考えた

いつか町へ戻れたのなら

僕はこのいきさつをすべて君に話すだろう

すると君は深い眠りから目覚める

そしてようやくふたりの時計は

再び動き出すのだろうと…

 

それは希望ではあるけれど

とても確かなことのように思える

 

何かを変えなくてはならない

その解決へとつながるこの道を

僕は歩いている

それはいつだって誰だって

独りで歩かなくてはならない

 

誰に言われるまでもなく

自然にあるがままに

 

 

イエロー・サブマリン

 

少年はいつも独りだった。

小学校では、休み時間になると

みんなが教室の一カ所に集まって、

ワイワイはしゃいでいる。

少年はそれが苦手だった。

 

みんなの脇をそっとすり抜けて、

校門を出ると、少年はほっとした。

いつものように少年は家に戻って、

プラモデルづくりに熱中した。

 

いまつくっているのは潜水艦サブマリンだ。

黄色い船体はだいたい組み上がった。

あとはスクリューを付ければ完成だ。

 

2日後、少年はサブマリンを手に、

近くの公園にある池にでかけた。

池はかなりの広さで、鯉や鮒が

ときどき顔を出した。

 

池の水は濃い緑色をしている。

少年が水辺にしゃがんで、

サブマリンのスイッチを入れると、

スクリューがブーンとうなった。

それをそっと水中で手放す。

 

サブマリンの黄色い船体が、

みるみる沈んでゆく。

黄色い船体はやがて緑色の水のなかに消えた。

 

サブマリンを初めて模型店でみたとき、

少年はこれだと思った。

いままで戦車ばかりつくっていたが、

飽きがきていた頃だった。

ヨットや戦艦もつくってこの池に浮かべたが、

なにか物足りないものがあった。

 

模型店のおじさんが潜水艦の説明をしてくれた。

サブマリンはとても優秀な模型で、

一度水中に潜っても数分後には浮上し、

また潜っては再び浮上する。

それを繰り返すとのことだった。

 

少年は池の淵に立って

水面をずっと凝視する。

と、ずっと遠いところで

黄色い船体が浮上するのがみえた。

 

少年はその方向へと走り出す。

船体は再び潜ってしまった。

そして数分経ったが

黄色い船体がどこにも現れない。

 

少年は気を揉んだ。

サブマリンより大きな鯉が、

あちこちで空気の泡を出している。

 

夕陽に光る水面を、

少年はなおも凝視した。

 

その日、潜水艦は二度と浮上しなかった。

 

翌朝早く、少年は池に走った。

潜水艦の姿はどこにもなかった。

とうに電池は切れているハズだ。

 

少年は落胆した。

 

遅刻しそうなので、少年は学校へと走った。

チャイムが鳴ると同時に、

教室へと滑り込む。

みんながけげんな顔をして少年をみた。

少年はそのとき、

顔を赤く染めて泣いていた。

そんな顔を教室のみんなも初めてみたのだ。

 

少年はそれでも泣き止まなかった。

とても悲しかったからだ。

 

そのとき、数人が彼に近寄って、

「どうしたの?」と声をかけた。

少年は何も言わず泣き続けた。

少年は予期せず、

みんなの前で初めて

感情あらわにしたのだ。

 

そして少年は少しずつ、

まわりの同級生に

事の次第を話しはじめた。

やがてその話は教室中に広まり、

とうとうホームルームの話題も、

少年のなくした潜水艦の話となった。

 

そして、みんなで池に行って、

サブマリンを探すことになった。

 

が、結局みんなでいくら探しても、

あの黄色いサブマリンはみつからなかった。

 

とてもシャイな少年は、

その日を境に徐々に変わっていった。

 

プラモデルづくりの時間が減った。

それは、教室のみんなと話す時間が増えたからだ。

 

少年のなかで堅い壁のようなものが

ガラガラと崩れていった。

 

或日、少年はみんなを連れて池をめざした。

手には黄色いサブマリンがある。

2艘目の潜水艦だった。

 

「さあ、進水するよ」

 

少年がいま手放そうとしている黄色い船体を、

みんなが見守っている。

 

潜水艦はみるみる水中へと消えた。

鮒が銀色の腹をみせた。

鯉の口がプカプカとやっている。

 

水面はあの日と同じように、

キラキラと光っている。

 

以前とは、すべてが違っている。

少年にはもう何の不安もなかった。

 

少年はそれがとてもうれしかった。

 

 

ショートショート「海辺の丘で」

 

海岸におおい被さるように突き出た小高い丘は、

いつでも草がそよいでいる心地のいい丘だった。

その先っぽに、ポツンと緑の公衆電話ボックスがある。

僕は、その電話ボックスのことが気になり、

気がつくとその丘へ行っては、

ボックスから遠く離れた草むらに寝そべって、

いつもその公衆電話を眺めていた。

 

誰もいないのに

誰も来ないのに…

なんでこんな所に公衆電話があるんだろう…

 

或る日突然、その公衆電話が鳴ったのだ。

その呼び鈴が風に乗って丘じゅうに響いた。

僕はビックリして立ち上がり、

その公衆電話に少しずつ少しずつ近づいていった。

鳴りやまない公衆電話の前に僕はそっと手を伸ばし、

緑の受話器におそるおそる触ろうとした。

 

突然、人の気配がした。

驚いたことに、どこから来たのか

ひとりの老人が僕の背後に立っている。

長い白髪の老人だ。

メガネが鼻からズレている。

木の節が柄の中ほどについた太い杖をついている。

 

「そこの少年、その電話は私にかかってきたのじゃ」

「えっ、そうなんですか」

「その電話をとってはいかんぞ。絶対にとってはいかん。

その電話は断じてこの私にかかってきたんじゃよ」

「あっ、はい」

 

僕は電話から少し後ずさりした。

老人はその電話に近づくと、

うんんと咳払いをして、

そしてひと息ついてから、

おもむろに受話器を取り上げた。

 

老人は電話の向こうの声にじっと耳を傾け、

ときおりうなずくように「はい」とだけ答えていた。

老人はそのとき、海の一点をみつめていたように見えた。

 

そう長い電話ではなかった。

老人は、電話を切る間際に「ありがとうございます」

と丁寧に会釈をし、そして静かに受話器を置いた。

見ると、眼にうっすらと涙が浮かんでいる。

 

僕は、ちょっと驚いた。

そして老人は僕の方を振り向くと、

「少年よ」とだけ言った。

「あっ、はい」

僕はあわてていた。

 

草がまるで生きているかのようにうねる。

とてもよく晴れた日の午後だった。

遠くの海はかすんで見えるが、

波は比較的に穏やかな日だった。

 

老人は海を見つめ、そして少しずつ歩き始めた。

老人の行く先にもうそれほどの距離はない。

その先は崖だ。

僕は危ないなと思って老人に近づく。

「どこへ行くのですか?

その先は崖ですよ。

危ないですから…」

老人がこちらを振り返った。

そして笑みを浮かべ、こう言った。

 

「少年よ、私はこれから出かけるのじゃよ」

と、とても静かに言った。

「どこへ、ですか?」

「簡単に言えば、昔の知り合いの所じゃ」

老人はズレたメガネを捨て、

そして杖から手を離した。

僕は何か嫌な予感がして、

「おじいさん、変な事をするのはやめてください」

と、叫んでいた。

老人は、いやいやと笑いながら、

大きくかぶりをふった。

 

「少年よ、あまり妙なことを想像するな」

それより、と言って老人は話を続けた。

「唐突な質問で申し訳ないが、

はて、君にとって良い人生とは何だと思う」

僕は、呆気にとられた。

「はあ、そうですね、

良い人生とは、後悔しないで何でも頑張るとか、

そんなことだと思いますが」

「そうじゃな、後悔しないこと。これが最高じゃ」

が、しかしと続けた。

 

「人はみな後悔だらけとよく聞く。

この年になると、そのことがよく分かるようになる」

老人は笑みを浮かべ、

「この世で、人はなぜみな後悔を残すのか、

不思議じゃよな。

さて、この訳を君は知らんじゃろ?

いや、知らんでいい。

が、これだけは覚えておくといい。

いずれ人は後悔するようにできておる。

これは人の生業がそうつくられているせいで、

そのようにしかならんのじゃよ」

 

老人はさらに続けた。

「なあ、私は君の名も知らんがこれも縁じゃ。

君はまだ若い。そこで、私の最後の仕事じゃ。

君に人生の極意とやらを教えてあげよう」

「はい教えてください。私に分かるかどうか

それが心配ですが…」

 

そう言うと、老人は今度は空を見上げ、

大きく息を吸ってから私にこう告げた。

 

「要するに、人はどう生きても後悔するものと決まっておる。

それが程度の差こそあれ、必ず後悔するように仕組まれておる。

これは、そうたとえば神様の仕業かも知れんがの」

 

老人はさらに続けた。

「で、その極意とやらは簡単じゃ。

後悔することをだな、

それを絶対に後悔しない事じゃ、

それだけじゃよ」

 

僕は、そのときこの老人が言ったことが、

いまひとつ良く分からなかった。

 

海が西に傾いた陽に照らされ、

ゆったりと光をたたえている。

 

老人は話し終わると、

僕に姿勢を正し、

そしてていねいに頭を下げると、

再び海の方へと歩き始めた。

 

と、老人に強烈な白い光が差し、

それは空から降り注ぎ、

老人の体が少しずつ浮かんで、

上へ上へ、空へ空へと上がっていき

ある所でパッと消えてしまった。

 

僕はその光がまぶしくて、

一瞬めまいを起こしてしまった。

そして、そのまばたきほどの瞬間に

あの緑の電話ボックスも、

跡形もなく消えてなくなっていた。

 

そこには何もなかったように、

丘は穏やかな陽に照らされ、

波の遠い音と、

絶え間なく、

風だけが吹いていた。

 

 

長い舌

 

なにが面白いのか

みんなケラケラと笑っている

人だかりの向こうでひとりの男が樽の上に乗り

口から火を吹き

目を見開いているのがみえた

赤い奇妙な衣装を身につけたその男が

今度は槍をみんなに向けて突くマネをする

笑った顔から突き出た長い舌は真っ白で

白目に血管が浮き出ているのが遠目にも分かる

そんな大道芸が

最近町のあちこちに現れては人目を惹いては

人だかりができるのだ

僕はあの火を吹いた男を以前見たことがあるが

それが何処だったか

とんと思い出せない

なぜだか嫌な予感がして

背筋に悪寒が走った

部屋に戻ってテレビをつけると

見慣れない男と女が裸で絡み合っている

男が横になった女に呟いた

「愛しているよ…」

直後に男がカメラに振り返り

ペロっと長い舌を出した

その薄汚れた灰色の舌には

冗談というシールが貼られていた

僕はなんだか息苦しくなり

窓を全開にすると

いままでかいだこともない異臭が鼻をつく

遠くで何かが炸裂する音がしている

窓下の通りを数人の男達が走りながら

「やっちまえ、やっちまえ!」と絶叫していた

胸騒ぎが起きて

洗面所に走って行って顔を洗うと

赤く濁った

いままで見たこともない液体がとめどなく流れ

僕はその場で卒倒してしまった

どのくらい経っただろうか?

うなるような轟音の音で目が醒めると

外はどんよりと暗くなっている

窓に近寄り空を見上げると

見知らぬ飛行物体が上空を埋め尽くしている

咄嗟に逃げようと駆け出すと

今度は足元から地鳴りがして

部屋全体がガタガタと揺れ

僕は立っていられなくなり

そのまま窓の枠にしがみつく

窓下を

あの大道芸に集まっていた人達が

悲鳴をあげて逃げ惑っている

僕はあの大道芸の男の顔を

やっと思い出したのだが…

 

 

 

歳をとると忙しい、らしい。

先月72歳の誕生日を迎えたご近所の春枝さんは、

年々、早起きになってしまいましてと、

困り顔で話されました。

「そうですか~」と私。

「若い頃は、昼過ぎまで寝てたんだけれどね」

と懐かしむように笑われました。

で、春枝さん。

まず早朝の薄暗いうちに近所を軽く歩く訳です。

この歩くという行為が、

若者には理解し得ない貴重な習慣とか。

曰く、歩いて少しでも筋力を養おうという意欲も去ることながら、

老化絶対はんた~い!、だそうです。

歩く先々では、アサトモ(朝友)と挨拶を交わしたり、

立ち話をしたり。

これも立派なコミュニケーションですね。

あと、朝陽を浴びるとよく眠れますよ、だって。

潜在的な脅迫観念で歩いていらっしゃるのかなぁ?

春枝さんは週に3日、

午前中は早くから、近所の公民館へ行かねばならない。

そこでは絵手紙教室をやっていて、

僅かな授業料で

懇切丁寧に教えてくれるところが嬉しいのだとか。

ホントは、その絵手紙がうまかろうが下手だろうが、

そんなことはどうでもいいそう。

脳ミソを使う、手先を動かす、みんなと話をする。

これでボケない、友人もできる。

一石二鳥以上の収穫なのよ、と。

さて、授業が終わるとみんなでお茶…なのですが、

そこで皆さんの持病の話に華が咲くのよね。

春枝さんは、まわりの話を聞いて内心ほっとするらしい。

みーんな何かしら患っている訳!

おっと、今日はそんな話をのんびりしている場合ではないわ。

で、春枝さんは「皆様、ごきげんよう!」と小走りに15分程歩いて、

馴染みの医院へ診察カードを出しに行ったらしい。

散々待たされている間に、

「主婦の友」を半分まで熟読してしまい、

今度はうたた寝。

と、看護師さんからいきなり呼ばれまして、

病室へふらふらと。

「望月さん、やはり平均よりかなり高いね、血圧。

下がらないね、うん、飲み続けましょうよ。

もうね、こうなるとこの薬とは一生のお付き合いになるね」

人なつっこい笑顔の先生に促され、

半ばしょうがないといった感じで薬を頂いたのよ。

今度は、病院から5分程引き返したスーパーで買い物。

小松菜、卵、即席ラーメン、夜は独り鍋にしようかしら、

と鍋セットもカゴへ。

で、自宅に戻って簡単なお昼を済ませ、

ちょっと横になる春枝さん。

なんと、自分のいびきで目が醒めてしまいました。

「ひるおび」を見損なって、

腹立たしいったらあらりゃしないのよ!

こうなると、「ミヤネ屋」に釘付け、

ガン見ですから!!

芸能ニュースにゃ目がないんですが、

こういう趣味はいつからなのか、

本人もトンと覚えていないらしい。

なんだかんだで夕方に突入すると、

ユニクロで買い揃えたナウなジャージの上下が、

カッコイイと春枝さん。

傾いた午後の陽を浴びながら、

これで、町内を一回りも二回りもするんですが、

目標は厚生労働省の発表どおり8,000歩をめざす。

春枝さんは、若い頃から几帳面だった。

陽が落ちてくるし、だんだん薄暗くなってくるも、

決してくじけない。

(夕飯は何にしようかしら?)

おっと、汗が化粧を溶かして顔がヤバイ。

が、外も薄暗くなってきたし年も年だし、

ここはもはや気にしない開き直りで

歩き続ける春枝さんでした。

ようやく歩数計が8000歩を示すと、

どっと疲れが出る。

心地良い達成感と同時に、

「生きているんだ」という実感が、胸に迫り来る。

だから止められないのよね…

というか、背後に迫る死神に捕まらないためにも、

頑張るしかない春枝さんには、もはや後がないらしい。

旦那を5年前に亡くした春枝さんは、

独り身ながら元気かつ生きる意欲が旺盛です。

そして、仏壇には毎朝欠かさず手を合わせているのよ。

さて、いまの悩みは、テレビの通販番組で知った、

骨粗鬆症に良いと言われているグルコサミンを買うかどうか。

汗を拭いながら、膝の痛みを考えると…

「やはりあのフリーダイヤルに電話してみましょう!」と

ようやく決心がついたようです。

夜、体操をしながら

大好きなテレビ番組のひとつである

「お宝探偵団」を観ていると、

突然電話が鳴ったのよね。

「こんな遅くに誰かしら?」

知らない電話番号、

思えば一ヶ月ぶりに鳴った電話だった。

恐る恐る受話器を取ると、

なんと小学校時代の同窓会のお誘いだ。

電話の主は名前だけは知っているクラスメイト。

聞けば30人位は集まるとか。

「出席させて頂きます、ハイ!」

嬉しさに久しぶりに胸が高鳴るも、

思えば、前回の同窓会が約30年前だったけれど、

なかには60年ぶりに会うクラスメイトもいると思うと、

懐かしいというより、

なんだかどっと疲れを覚えましてね。

「みんな元気なのかしら?」と

何気なく春枝さんは尋ねたらしいのですが、

それがね…と電話の向こうが言うには、

「だいぶいなくなっちゃったのよ」

(………)

翌朝から、春枝さんの歩くスピードは更に増し、

距離もグングン伸びたようです。

己の生命力にムチを入れるように…

そして顎とウェストの贅肉をそぎ落とすぞ、

と今更ながら明確な目的が設定された為でもある。

「負けませんからね!」

春枝さんに落ち込んでいる暇はないと言う。

「なにしろ私はいま忙しいの!!

死んでる暇なんかない訳よ」

と春枝さん。

私は思わず後ずさりして

「そっそうですよよね、私もそう思います!」

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無印良品的彼女の場合(マーケティングストーリー)

A子の休日は、最近では、とにかく歩くこと、

そしてその帰りは買い物と、

ほぼルートが決まっている。

いつものように河川敷きを小1時間歩いたA子は、

その足で、隣町にあるフェアトレード紅茶をいただける喫茶店「マル」で、

ゆっくりとした時間を過ごす。

店を出ると、マルの並びにある青空市場で、

地元の農家が卸す無農薬野菜を幾つか手にとり、

気に入ったものをセレクト、

今夜のメニューに思いを巡らす。

そして最後に立ち寄るのが、

最寄りの駅ビルに入っている無印良品だ。

女子大を出て4年、現在A子に彼氏はいない。

もとより結婚ももう今更面倒と思うようになり、

現在は自分磨きに精を出していると言った方が的確か。

無印では自然派化粧品を定期的に買う。

特にここのスキンケア類をA子は気に入っている。

冬になると、ディフューザーに入れるアロマオイル類も

ここへ買いにくる。

A子は、ことのほかライムの香りが好きで、

部屋にこの香りが満たされると、

いろいろ鬱屈した嫌な事を忘れることができる。

そういえば、ここのチキンカレーも、

A子のお気に入りだ。

マクロビオテックにはまり出してからは、

肉類を食べることもほぼなくなったが、

たまに良質の鶏肉を買い、

無印のチキンカレーに煮込んで食べるのが、

A子のたまの休日の夕飯でもある。

A子は以前、

男とは2度ほど付き合ったことがあるが、

付き合う度に、

なにかピンとこないことに気づく。

最初の彼は、高校時代の先輩。

その頃はちょっと崩れた感じに惹かれ、

デートではよくドンキへ連れて行ってくれた。

そういえば、先輩のクルマは、

古いクラウンをレストアした年代物。

改造他に数百万円はかかったというが、

A子にはどうもピンとこなかった。

先輩からその話を幾ら話を聞かされても、

そのクラウンの良さがA子には分からなかったのだ。

いい加減、ドンキにも飽きた頃、

A子は先輩に別れ話を持ち出した。

先輩は気のいい人だったが、

いつの間にか、

ピンとくるものが無くなっていたというべきか。

それが証拠に、

お互いの価値観が何から何まで違っていたのだ。

先輩はA子と結婚まで考えていたようだが、

A子はその要望を、申し訳ないと思いながらも絶つことにした。

大学を出ると、A子は都内の大手IT系企業に就職。

そこでニューヨーク・デザインに目覚めた。

その職場の上司だったディレクターが、

2番目の彼だった。

A子は彼のやさしさとアタマの良さに惹かれた。

彼とは、会社からの帰りなど、

よく都内のカフェやレストランに立ち寄り、

デートを重ねた。

彼のスマートさは社内でも有名で、

他の女子社員の憧れでもあったようだ。

或る日、彼とつまらないことから諍(いさか)いになり、

A子も久しぶりにいらいらしていたので、

いつもは口にしない口ぶりで彼に言い返した。

諍いの発端は下らない事だったが、

彼と言い争いをしているうちに、

彼の勝手な言い分を並べ立てる姿勢に、

A子は、このときはじめて辟易した。

そしてA子の論理に彼が行き詰まると、

いきなり訳の分からない事を口走って、

なんとレストランの中でどなり始めたのだ。

驚いたA子は、それから2週間後、

彼にメールで別れを告げた。

最初の先輩と付き合っていた頃、

A子は最初、

周りに合わせてギャル系の格好をしていたが、

次第に何かが違うと思い、

ワンピースを好んで着た覚えがある。

就職してからは、コンサバ系を好んだが、

彼と別れてから、

このファッションともおさらばした。

この頃からだ。

A子はブルージーンズに白いTシャツばかりで過ごした。

ユニクロもZARAも何度も足を運んだが、

どうも違うな、と感じていた。

なにかがピタッとこないのだ。

A子は焦るたび、

行きつけのジーンズショップで

名も無いメーカーのブルージーンズとTシャツを買い足した。

A子の部屋は7畳のフローリングのワンルームで、

或る日カーテンを換えたくなったA子は、

3駅先のニトリへ行ってみることにした。

ニトリのカーテンは品数も多く、

どれも一見よさげに思うのだが、

その質感、そしてデザインを検討するほどに、

なんだか訳の分からない違和感を覚えていた。

その日の帰りに駅前のビルをブラついていたA子は、

或るひとつの店に釘づけになった。

その店は以前から知ってはいたが、

A子は、店内で商品のひとつひとつを確かめ、

改めてその店の虜になった。

それが無印良品だったのだ。

寝具コーナーへ行くと、

生成りのベッドカバーは肌触りが良く、

タグで原材料を確かめると、

国産の麻とエジプト綿の比率が、

程よい構成比てであると、

A子は思った。

文房具もA子の趣味のひとつではあるが、

無印のノート類のあのシンプルなデザイン、

そしてその質感と生成り色に惹かれた。

A子は改めて店内をぐるっと見回す。

すると店内の至る所がキチンと整理され、

ギラついた色のものはひとつとして無く、

すべての商品が、

シックな生成り色を基調としていた。

そろそろ都内のIT企業を辞め、

地元の埼玉の田舎町に帰り、

フリーのデザイナーとして独り立ちしようと考えていたA子にとって、

デザインとは、いろいろな要素を足す作業ではなく、

削いで削いで、基本的に骨太であること、

そして簡潔でシンプルなデザインこそ、

人を感動させる…

こうしたデザイン感がこれからの主流と、

A子は考えていた。

生活も然り。

毎日の暮らしとは、賢く質素であること、

例えば、質の良い食材を料理し、

程々の量をいただく。

着るものはシンプルかつ機能性に富み、

永く使えるものにのみ価値をみいだしていた。

無印は、そんなA子の欲求を充分に満たす存在だった。

今日の休みも、A子は買い物の帰りに、

駅前の無印へと足を運ぶ。

なにも買うものがないのだが、

ついつい店内を覗いてしまうことが習慣になっている。

美人と誉れ高いA子は、

よくいろいろな所で声をかけられるが、

そういう男たちには一切口を開かない。

そういえば、いまの会社でも、

同僚の男と、

仕事の相手先の担当から交際を申し込まれているが、

A子はこれらに回答する気もなく、

さっさと退職の準備を進めている。

「もっと知的でギラギラしていない男って、

いないのかしら…」

最近のA子の呟きである。

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1974/モラトリアム(ショートストーリー)

この先、

一体、自分はこのままでいいのか?

20歳になろうとする悟は、

最近、自問自答するようになった。

冷凍食品の配送が、いまの悟の仕事だが、

ルートセールスは毎日同じ客筋を延々と繰り返して廻り、

カチカチに凍ったコロッケとか海老の箱詰めを、

肉屋やスーパーへ届けている。

しかし、

高校を卒業して最初に就いたバーテンダーよりマシだと、

悟は思っていた。

酔っ払いの相手はいい加減に馬鹿臭いと思ったからだ。

昼夜逆転の生活も、悟に暗い将来の暗示と映った。

途中、関東一円に荷を運ぶトラックの運転手もやってみたが、

夏の暑い日に、延々と田園が続くアスファルトの道を走っていると、

このまま海へ続けばいいなと、よく思った。

この仕事も日雇いと同じで、日給月給だった。

人生で初の正社員として採用してくれたのが、

いま働いている冷凍食品の会社だったが、

悟の自問自答は、日増しに膨れあがり、

避けて通れない難問となって立ちはだかる。

思えば、この問題は、高校時代まで遡るとことに気がついた。

悟の選んだ高校は私学で、

入学して分かったことだが、

すべてにスパルタが徹底していて、

何事に於いても、個人の自由は削がれていた。

そうした情報を知る術を、

当時の悟には知る由もなかった。

校内では、竹刀を手にした体育会系の人間がうろつき、

ちょっと気に入らない態度の生徒を、

規律を乱すとの理由で容赦なく叩いていた。

悟は、高校に息苦しさを覚え、

2度ほど辞めようと思ったが、

もう少し続けてみようと思ったのは、

担任の先生との関係だった。

その先生が何度も悟を説得してくれたのだった。

「悟、もう少し頑張ってみようよ」

悟は退学届けは出さず、

無断で高校を何日も休んだ。

その行為はいろいろと問題とされたが、

担任の先生の計らいで、難を切り抜けた。

その私学は大学の付属校だったが、

悟はその大学へも、勝手に失望してしまった。

学校へ行かない日は、

地元の配管工をしている友人の家で、

寝泊まりを繰り返した。

昼間はその遊び仲間のアパートで過ごし、

よくフォークソングを聴いた。

みんながいいという井上陽水をどうしても好きになれなくて、

悟は、吉田拓郎ばかりを聴いていた。

「人間なんて」という歌がステレオから流れると、

悟は心底その歌詞に共感した。

誰もいない日は、

そのLPレコードの「人間なんて」の部分を、

何度も繰り返して聴いた。

結局、高校はなんとか卒業したものの、

トコロテン式に上がれるその大学への進学は、

早々に辞退していた。

悟以外は、クラスの全員が、その大学へ進学した。

他の大学をめざしたクラスメイトも、

学校の内申書の意図的な操作で、

結局その大学へ行くしかなかったと、

後に噂で聞いた。

こうして、

高校時代から悟の軸は少しづつズレが生じ、

荒れた生活へと傾いた。

そして、

地元の遊び仲間たちとの行動が、

いろいろな歪みを生んだ。

警察の世話になるようなことも、

一度や二度では済まなくなっていた。

自問自答の原因は、

こうしたズレの集積であることに、

悟自身はようやく辿り着く。

悟は考えた末、

冷凍食品の会社に辞表を出した。

突然の辞表に驚いた所長は、

「お前は一体何を考えているのか?」と問われた。

「いまはまだ分かりません」

悟は中学校時代に親しくしていた友人を、

久しぶりに訪ねた。

しばらく会っていなかった友人は、

大学の法学部で、

法律の勉強に勤しんでいると話してくれた。

悟は思い詰めたように、

或る想いをその友人に話した。

「俺さ、なんだか分からないけど、

いまの自分が自分でないようで、

いたたまれないんだよね。

本当は、何かをつくりたい。

たとえば、新聞とか雑誌とか…

そういうものに携わりたいんだ。

才能とかって自分でもよくわかんないけど、

ただやりたいなって…」

「………」

「いや、いまの俺に必要なのは、

時間なのかも知れない。

要するに、

もう一度、やり直したいだけなんだ」

友人はためらった後、

そうした仕事に就くには、

まず学歴もないとな、とも話してくれた。

悟の最も嫌いな学歴という経歴が、

やはり現実の世界では、依然幅を利かせていた。

そして友人はモラトリアムという言葉の意味を、

悟に教えた。

大学の願書も偏差値も赤本も、

そして中学からの勉強のやり直しが最も有効だということも、

その友人が教えてくれた。

秋の気配が広がる頃、

悟は家に籠もって勉強を開始した。

両親は悟の行動を訝しがったが、

特に触れることもせず、

生活費をよこせとだけ、小言を繰り返した。

試験は翌年の2月14日。

友人もときどき徹夜で応援してくれた。

正月の元旦を除いて、

悟は受験勉強に集中した。

1974年の春、

とりあえず悟は自らの人生を再起動させた。

クルマの借金返済と生活費に学費か…

先に何が待っているかはよく分からないが、

悟は、なにより執行猶予期間を手に入れた。

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恋はみずいろ

幼いわかれを携えたまま

僕は地元の中学へと入学した

相手の子は電車に乗って

遠い有名中学へと通ったらしい

初めてのわかれのようだった

ようやく

そんな悲しみも消えかけたころ

僕は偶然

校庭でみかけた女の子に

恋をしてしまった

同じ学年だったが

僕はその細身の子を

初めて見たような気がした

髪を肩まで伸ばし

先がくるっと外側に跳ねている

黒い魅力的な瞳が印象的だった

陽が

校舎を赤く染めた或る放課後

僕は意を決して

その子に話しかける

キシキシッと鳴る長い廊下を走り

背後から

僕はその子に声をかけた

必死だったので

僕の息は切れかかっていた

「あの、ええっと

こんにちは!

あの…

このレコード知ってる?」

「えっ、なに?」

その子の腰が退けた姿に

僕の喉は

よけいにカラカラになった

「あの、こ、このレコード、

知っています?」

「これ、ええ、知っているけれど…」

「良かった!

じゃあ、これあげるよ」

「エッ!」

その子は栄子という名だった

髪を触りながら

黒い大きな目を更に大きく

まるくした栄子さんが

レコードに触れながら

呆然と僕を見ていた

それからのことは

よく覚えていない

とにかく

僕は栄子さんにレコードをプレゼントすることに

成功した

僕はとにかく走った

気がつくと

仲間に頭をこづかれたり

撫でられたりしていたから

なんとか無事に教室に戻ってきたんだ

「ついにやったな!」

「…駄目だよ、やっぱり無理。

あんな綺麗な子…」

「そんなことまだ分からないだろ?」

「………」

その頃

僕はいろんな音楽を片っ端から

聴いていて

ラジオから流れてくる曲や

流行のレコードならなんでも知っていたし

お小遣いのすべてを

録音機器やレコードにすべて費やしていた

栄子さんを初めて見かけた

あの運命の日も

僕はそのときめきを

どう表現しようか迷ったが

結局その表現方法も分からず

ふと思い出したのが

僕の気持ちを代弁してくれる

レコードだった

こうして

少しおとなに近づいた僕は

もう

あの淡い別れはすっかり忘れて

水面に揺れ動くような

胸を揺さぶられる恋を

生まれて初めて体験した

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20世紀少年

「おっ すげぇ」って友達が言うのさ

最高だって

他のみんなも言ってたのさ

まるでロビンフッドだって…

そう ボクは普段

猫みたいに動き回るのに

雄羊のように突進もできるのさ

そして蜂のように刺す

でもって

飛行機みたいに飛び回れるし

クルマみたいにも突っ走れる

チキンみたいに大騒ぎもするさ

なっ 分かるだろ

キミにボクは必要だって!

あのね

ボクはキミに近づきたいんだ

見れば分かるだろ

キミはボクに必要な女性なのさ

そう

ボクがキミの相手なのさ

それでどう?

キミの

20世紀のオモチャになってあげるよ

キミの20世紀のオモチャさ

なっ 分かるだろ

ボクはキミに近づきたいんだ

そしたら

ボクはキミの20世紀少年

キミの相手はボクしかいない

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