遠い世界に

 

一枚のハガキ届いて

ボクのココロにふたつの風船おどり出す

開け放った窓から飛び込む風に

ふたつの風船おどり出す

 

街へ出て

目ぬき通りのいちばん端のくだもの屋で

小さなオレンジをひとかご買った

 

ステップを踏むように歩いていると

太ったおばさんが笑っているのを

小さな少女がけげんそうに眺めていた

 

街の外れの道を逸れ

柵を乗り越え

牛の背中に飛び乗って

 

流れる白い雲につかまった

 

かごのなかのオレンジ

空に放たれ

黄色の風船も

空のかなたに消えていった

 

一枚のハガキ届いて

ふたつの風船おどり出し

そしてボクは世界を見渡し

ちょっとオトナになっのさ

 

 

夏の夕ぐれ

 

 

 

夏の夕ぐれ

今日の終わり

 

光る雲

遠い空

 

窓辺の椅子に身体を委ねたら

ハニー&ケーキで昼のほてりをしずめましょう

 

窓辺の花が物憂い

けだるい

 

過ぎてゆく時間

陰影のドラマ

 

だから夏の夕ぐれは

誰だって遠いくにの夢をみる

 

 

新月

 

新月の夜に

願いごとをすると叶う

そんな習わし

昔からの言い伝え

 

それはなぜ…

意味など導き出せない

 

とりあえずは願いごとを紙に書いて

すっと夜の窓辺へと差し出してみる

 

もっと楽な仕事がみつかりますように

別れてしまった妻が戻りますように

 

つまらない望みごと

だけどなにかいい予感がするなぁ

ちょっと嬉しい気になっている

 

願いごとをするとはそういうことなのか

 

見上げると夜空は漆黒かつ寒々しく

今夜は星さえでていない

 

月は明らかにそっぽを向いている

いや 宇宙の果てなどへでかけて

留守にしているに決まっている

 

この闇夜に乗じたのか

家のまわりを狐がうろつく

異様に光る複数の目

よそ者はかえれと警告している

しまいに雨さえ降ってきて

 

ああ そろそろ町へ下ろうか

 

 

まだ若い君へ

 

まどろみから生まれたものは
明快ではないが新鮮だ

熟考される前の
熱い力がほとばしっている

青春という季節は
朝露のころがる青葉の如く
新鮮でみずみずしくもある

しかしそのさなか
その様は誰ひとりとして
気づかない

やることなすことが
どれも虚しく

悩み 悲しみ 怒り

そのすべてが激しく
ふつふつと動いている

青春は
赤い血のいろ
そのものでもある

そして経年し
ひとは誰も色あせ

やがて人知れず枯れてゆく

 

さて
チマチマしてもしょうがないではないか

いまこの時代は
歴史の大きなうねりである

君はまだ若いから

君の勘違いは許されるから

まずは小志大志をもって
疾風のように
いまを駆け抜けてみてはどうだろう

君が生きていたという証は
心のなかに一生宿り続ける

たかが百年のいのち

されど百年のいのち

生きるとは燃焼すること

生きるとはまた
死ぬことなのだから

 

 

風のテラス

 

遠いあの山の向こうの

遙か彼方にあるという

風のテラス

紺碧の空に包まれて

木々は囁き

蜜蜂に愛され

誰もいない波間に漂うという

風のテラス

 

水平線に浮かび

潮に洗われ

トビウオの休む所

いにしえの場所

そこに

椎の木のテーブルと

二脚の真鍮の椅子

 

風は歌い

微笑み

風は嫉妬し

うつむき

そして通り過ぎる

 

向き合ったふたりに

椎の木は黙って

テーブルに一房の葡萄と

恋物語

 

ひとりが去れば

ひとり訪れ

ふたり去れば

ふたりが訪れる

 

風のテラスは

空を見下ろし

風のテラスは

水底を見通し

風のテラスは

人を惑わせ

そこには只

椎の木のテーブルと

二脚の真鍮の椅子

 

陽を浴びて

星が降り

ジリジリと焼け

凍てついて

蘇る

可笑しくて

悲しくて

悔しくて

恨んで

愛おしい

 

風のテラスは

誰もが

一度は訪れる

 

考えるほどに

思いだすほどに

彼方に消えてしまう

 

そこは

風のテラス

幻の忘れ物

恋の記憶

 

 

花束をあげよう

 

花束って、

もらうととてもうれしい

あげてもやはりうれしい

 

そこにはきもちっていう

不思議なものを伝える

電気とか空気振動にも似た

見えない伝達機能のようなものが存在していて

ちょっとした感動がうまれたりする

 

赤いバラの花、カーネーション、真っ白なユリのはな

黄色いスィートピー、すがすがしいキキョウの紫

そしてカスミソウ、麦の穂やら

 

いろいろな花でにぎわって

いろいろな色が交りあって

想いが込められて

花束はあたらしい生命に生まれ変わる

 

とても幸せないっしゅんは

きもちを伝える方も

受けとる側も

 

花の命はみじかいけれど

とてもしあわせな命

 

 

夏の少年

 

半ズボンのポケットのなか

ビー玉がジャラジャラと重くて

手を突っ込んでそのひとつをつまむと

指にひんやりとまあるい感触

 

強い陽ざしにそのガラスを照らし

屈折が放つ光の不思議に魅せられて

しばらくそれを眺めていた

 

猛烈にうるさい蝉の音が響き回る境内

 

水道水をゴクゴク飲んで

頭から水をかぶり

汗だか水だか

びしょびしょのままで

境内のわき道をぬけ

再び竹やぶに分け入る

そんな夏を過ごしていた

 

陽も傾いて

気がつくと猛烈に腹が減っている

 

銀ヤンマがスイスイと目の前を横切っても

のっそりと葉の上を歩くカミキリムシにも

もう興味はうせて

空腹のことしか頭にないから

みんなトボトボと歩きだす

 

道ばたの民家から

魚を焼くけむりとにおい

かまどから立ちのぼる湯気

とたんに家が恋しくなって

疲れた躰で足早に山をくだる

 

あの頃のぼくらの世界は

たったそれだけだった

きのうあしたは

意識の外のじかんだった

今日という日だけを

精いっぱい生きていた

 

町内のあの山の向こうはわからない

あの川の先になにがあるのか知らない

 

僕らの信じられる世界は

たったそれだけで完結していた

 

 

 

夜の饒舌

 

常識や日常

いや信仰さえも崩れ落ち

世界は誰もが終末を口にし

神さえ疑わしい日から

幾年 幾月が過ぎた

 

月ってきれいだなと

ある日ベッドを窓辺に移し

文庫本ひとつを手に

和室の灯りを消し

すだれ越しに夜空を見あげれば

平安の時代から変わらないであろう

月あかりはやはり穏やかで

雲の流れる様が

ロマンチックなスクリーンのように

真夜中の空は饒舌だった

 

思わず本を置いて

見とれていると

どこからともなく

静かに 静かに

草の音 虫の音

 

なんと

平和な音じゃないか

平安の夜である

 

指揮者が不在でも

月夜の晩に必ずひらかれる

夜会

 

いまだ混沌の世の中で

誰もが疲れているけれど

このひととき

この瞬間

 

やはり神に祈ろうかと

 

 

 

 

空をあげよう

 

この絵の真ん中に

一本道があるだろ

その遙か先に

実は

薄く水色にのびる地平線があってね

その上に大きく広がっているのが

僕の空なんだ

 

想像してくれないか

あとはもう描くスペースがないからね

 

思えば

空って

泣いたり笑ったり怒ったりと

ホントに忙しい

ああ

僕と同じだって…

気まぐれで面倒

ときには心変わりだってするし

 

でも

空には

おひさまも

お月さまも

星もある

誰だって輝くものを

きっと幾つももっていて

それと同じなんだと

 

そして空は

宇宙へと続く

 

僕には到底描けないけれど

そんな僕の空を

受け取ってくれないか

 

 

長い舌

 

なにが面白いのか

みんなケラケラと笑っている

人だかりの向こうでひとりの男が樽の上に乗り

口から火を吹き

目を見開いているのがみえた

赤い奇妙な衣装を身につけたその男が

今度は槍をみんなに向けて突くマネをする

笑った顔から突き出た長い舌は真っ白で

白目に血管が浮き出ているのが遠目にも分かる

そんな大道芸が

最近町のあちこちに現れては人目を惹いては

人だかりができるのだ

僕はあの火を吹いた男を以前見たことがあるが

それが何処だったか

とんと思い出せない

なぜだか嫌な予感がして

背筋に悪寒が走った

部屋に戻ってテレビをつけると

見慣れない男と女が裸で絡み合っている

男が横になった女に呟いた

「愛しているよ…」

直後に男がカメラに振り返り

ペロっと長い舌を出した

その薄汚れた灰色の舌には

冗談というシールが貼られていた

僕はなんだか息苦しくなり

窓を全開にすると

いままでかいだこともない異臭が鼻をつく

遠くで何かが炸裂する音がしている

窓下の通りを数人の男達が走りながら

「やっちまえ、やっちまえ!」と絶叫していた

胸騒ぎが起きて

洗面所に走って行って顔を洗うと

赤く濁った

いままで見たこともない液体がとめどなく流れ

僕はその場で卒倒してしまった

どのくらい経っただろうか?

うなるような轟音の音で目が醒めると

外はどんよりと暗くなっている

窓に近寄り空を見上げると

見知らぬ飛行物体が上空を埋め尽くしている

咄嗟に逃げようと駆け出すと

今度は足元から地鳴りがして

部屋全体がガタガタと揺れ

僕は立っていられなくなり

そのまま窓の枠にしがみつく

窓下を

あの大道芸に集まっていた人達が

悲鳴をあげて逃げ惑っている

僕はあの大道芸の男の顔を

やっと思い出したのだが…