以前から、体のあちこちがしびれていたので、
一度検査しなくてはと思っていた。
脳のなかの何かの異常も考えた。
で、しびれクリニックなるものをネットで発見。
要は脳神経外科なのだが、
そこに行くことにした。
新しいビルのワンフロアは、
リゾートの雰囲気を醸し出している。
サーフボードや海にちなんだ小物。
静かに流れるBGMはハワイアン。
ちょっとホテルを思わせるようなリッチさなのであった。
血圧とか問診票の記入とか、なかなか忙しい。
で、じっと待つこと20分。
医者は、割とかっこいいひとだった。
ヒヤリングのあと、
手足や目の動きなどをチェックされた。
で、いきつくところ、
頭のなかをみないとなんとも、という結論。
で、MRIなのである。
これはすでに織り込み済みで、別に驚きもない。
最初からそのつもりで行った訳である。
MRIは脳内の血管を映すらしい。
ここに異常がないか調べるのである。
で、そのMRIがある部屋の前で
呼ばれるのを待つ。
大きな赤い字で注意書きがしてある。
無断立ち入りとか、あと禁止マークとか。
雰囲気として危ない印象のMRIであった。
ドアの向こうからは、ビーだかゴーだか、
なんかすごい音が聞こえてくる。
むむ、なんだこのすごい音は。
「うーん、なんか雰囲気がやばいなぁ…」
この体験は、実は今年の春のことで、
まだ肌寒かった。
私はユニクロのヒートテックを着ていた。
で、あとで知ったことだが、
MRIはヒートテックに反応するらしく、
汗をかいたりすると火傷の恐れもあるとか。
この真偽はいまだに定かではないが、
MRIに対する印象は、
さらに良くないものになっている。
私はこの日、結構汗をかいていました…怖
で、いよいよ私の番。
全く無表情のおんなに案内される。
広い部屋の真ん中にドーム状の筒のようなベッドがある。
これは、ネットでみて知っていた。
ベッドが細っそい。
その看護師だかが、なんだかメンドーそうに、
MRIの説明をする。
ふんふん。
で、ベッドに横になる。
ベルトで固定される。
ん、なんで結わくの?
で、頭部はもっとハードだった。
頭が動かないようタオルで狭くしてあり、
そこになおもぎゅぎゅとヘッドホンをだ、
無表情おんなが無理から押し付けてくる。
痛い痛い。
ちょっときついですねと言うと
無表情が「そういうもんです」
…
極めつけは、
最後にの仕上げに、
アメフトのような鉄仮面を顔に固定された。
視界が異様に狭まる。
(うーん、なんか体も頭も
窮屈だし、まわりがよくみえないなぁ)
さあ、そのまま筒状に入れられ、
そこで15分じっとしている訳だ。
(棺桶に入るってこんな感じなのかな?)
我ながら、いやーなことを考え始めた。
で、いやーなイメージはさらに加速をはじめる。
1.池の底に沈められているような圧迫感…
2.「そこからお前は二度と這い出すことができない」と、
誰かがつぶやいているような幻聴 汗!
急に脈が速くなる。
血圧もがんがん上がっているのだろう。
息が浅く荒くなる。
おっと忘れていたが、
私は元々閉所恐怖症だったのだ。
あの丸い筒状のなかに押し込められたら、
もう中止はできない。
誰も助けてはくれない。
いや、いまなら間に合うかも知れない。
「すいません!」
と大声で助けを呼んでみる。
「やめます、中止しまーす!」
MRIは既にうなり始めている。
それはヘッドホンをしていても、
そこから優雅なハワイアンを流していても、
消せるような音ではなく、
いままさに動く寸前のうなりだった。
私は、顔面鉄仮面を外してもらい、
固定ベルトを外してもらい、
まあその間いろいろあって、
汗を拭き、深呼吸をして部屋を出た。
結局、この日は、
検査をCTスキャンに切り替えてもらい、
結果は異常なしと言われた。
CTスキャンをやっている最中に技師の方が
話してくれたのは、
MRIを受ける人のほぼ3分の1くらいが、
中止を求めるとのこと。
彼は世間話をするように笑って話す。
「ホントですか?」
「そうですね。なかには、
ずっと寝ているひともたまにいますが…」
「ふふん」
残念ながら、MRI初体験は失敗に終わった。
よって脳内の血管の様子は、いまだによく分からない。
一応、医者に促されながら、
次回の予約をとり、真新しいビルを出る。
外は午後の日差しが降り注いでいて、
ビルからながい影が伸びている。
町ゆくひとが平和そうにみえた。
彼らは少なくとも、
いま体験してきたこちらの恐怖を知らない。
おもむろに目の前にあった喫茶店に入る。
コーヒーにミルクをたっぷり入れて口にする。
うーん、なんてうまいんだ。
なんだか、健康とか平和っていいなぁって、
つくづく思い知らされた午後なのであった。