「純喫茶レア」(その3)

「いいとこ、あるんだ」

「どこ?」

「うん、最近できた喫茶店なんだけどさ」

「ふーん」

二人はとぼとぼ歩き出した。

本屋の角の脇道を入り、少し行くと
白くまぶしい建物が目に入った。
店の入り口にはお祝いの花がいっぱい飾ってある。

ここか、と俺は思った。

白い壁には銀色の流れるような文字で
「レア」と書いてあった。

その上には青いプレートが貼ってあり
純喫茶と書かれていた。

「ここなんだけど、入ってみる?」

「うーん、どうしよう。高校生がこんな所へ入っていいの?」

「わかんない。けどいいんじゃん!」

俺が意を決して入ると、彼女も後についてきた。

店内は広く、壁、天上、総てが白で統一されていた。
四隅には小さな噴水があり、小さな子供の彫り物が飾ってあった。

「いらっしゃいませ!」

白いワンピースを着たウェイトレスが、俺たちを大理石のテーブルへ案内してくれた。

革張りの白いソファーに腰を下ろす。

「なんかすげぇなー!」

「うん、いいの、こんな所へ来て?」

「いいと思うよ。だって純喫茶なんだもん」

「純喫茶ってなに?」

「うーん、知らないんだよね」

「なにそれ!」

「あっ ゴメン! 俺もよく分からないんだけど
コーヒーかなんかそういうもの、飲めるみたいよ」

「そう」

彼女はそわそわと落ち着かない様子で、あたりをキョロキョロと見ている。

まわりをみると、俺たちが最年少の客だとすぐに分かった。

俺の嫌いなアイビー・ルックのカップルが多かった。
みんな慣れた仕草で、夢中で話している奴もいるし、
黙ってお互いを見つめ合ったりしているカップルもいる。

「未成年がこんな所へ来ていいのかな?」

「もう入っちゃったモン、な?」

「まあ、そうよね」

「いらっしゃいませ!」
ウェイトレスが真っ白いメニューを私と彼女に差しだし
水の入ったグラスをふたつ、テーブルに置いた。

「何に致しましょう?」

どっと冷や汗が出てきた。

メニューを開くとしばらく何が書いてあるのかよく分からなかった。

(落ち着け)

やっと、コーヒーという文字が見えた。

やったね、と俺は思って
「コーヒーちょうだい、知子は何にする?」

「レモン・スカッシュ」

案外、知子のほうが落ち着いている。

つづく

※この話はフィクションです

「「純喫茶レア」(その3)」への2件のフィードバック

  1. >「俺の嫌いなアイビー・ルックのカップルが多かった…」
    この感覚、よく分かりますねぇ!
    スパンキーさんの当時の立ち位置が想像できます。
    「純喫茶」 に紛れ込んで、少し戸惑っている二人の雰囲気がユーモラスに描かれていて、楽しい読み物になっています。
    確かに、こういう感じの喫茶店が昔は当たり前のようにありましたね。懐かしいです。
    「喫茶店」 が 「カフェ」 に変ったときに、日本の文化風土もやっぱり変ったのでしょうね。
    さぁて、この2人は、「レア」 を知ることによって、どういう心境の変化を遂げるのか。
    続きが楽しみです。

  2. 今どきのスタバなんかより、私にとっての純喫茶体験は、エラく衝撃的でした。
    とにかく前例というものがないので、異文化に飛び込むようなものとでも言いましょうか。
    さて、未成年のふたりは、ここからどんなストーリーを展開するのでしょうか?
    つづきは、これから書きますのでお楽しみに(爆!)

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