日付変更線 (story6)

前号までのあらすじ

(東京に疲れた僕は

休暇で訪れた南の島で

蘇り、そこで出会った

彼女に恋をする。

東京へ戻ると

やはり馴染めない何かが…

僕は一大決心をして

会社を去ることにした)

会社を辞めた一週間後

僕は千葉の海へとでかけた

湘南はなんとなく晴れやかそうなので

いまの僕にはふさわしくない

そんな気がした

世田谷のマンションを出て

首都高から京葉道路を突っ走ると

館山もそう遠くは感じない

穏やかに打ち寄せる波に足を浸し

夏間近の日差しを受けて

僕は、遠くの景色を眺めていた

銀色の機体が

小さく

青く抜けた空に光る

(あの飛行機は何処へ行くのかな?)

僕はあの島でのできごとを

思い出していた

が、僕は考えを遮り

自分のこれからを真剣に考えなくては…

と思った

交錯した考えを整理するため

僕は勢いTシャツを脱ぎ捨て

浜に寝転がり

自らを問い正してみた

雲がぽかんと

ひとつふたつと流れていく

いつしか僕は

去年の春に係わった

デパートでのイベントの仕事のことを思い出していた

私のいたチームは

リゾートというコンセプトで

ゴーギャンという画家の絵を中心にした

アートとファッションのフロアづくりをした

そのとき

ゴーギャンという画家を知るにつれ

僕はこのアーティストに惹かれた

作品のもつ奔放さや大胆さはもとより

彼の一種独特の感性に惹かれたのかも知れない

正確にいうと

僕はゴーギャンという人の生き方に

特別な思いがあったかのような気がする

ゴーギャンは当時、いまで言う

サラリーマンだったようだが

恐慌が起きてその生活に不安を覚え

絵描きに専念したという

が、彼は西洋文明に絶望して

フランスを去ったという記述もある

後、ゴーギャンは

カリブやポリネシアの島々を転々とする

そして

タヒチの島の少女に恋をして

彼はそこで生涯を閉じる

彼の絵は

当時売れなかった

そして祖国フランスでも

彼は奥さんに愛想を尽かされている

彼が生涯幸せだったのかどうか

それは書物から読み取ったとしても

真意ではないだろう

だいたいにおいて

彼はいたたまれない人生だったと

記述してあるものが多いのだから…

だが、ただ一点

僕は彼の最後の恋に注目していた

千葉の海へ行った半月後

僕は成田空港を旅立った

サイパン・グアムを経由する

コンチネンタル航空のその便に

忙しそうなビジネスマンの姿は

皆無だった

その路線は

いわば空の各駅停車のようなコースなので

CAも花柄のワンピースで

どことなく陽気だった

世田谷のマンションは引き払い

残った荷物を実家へ預けたとき

両親から

「これからどうするんだ?」

と聞かれて僕は

「とにかく考えたい」

とだけ答えていた

トランジットで

グアムのパシフィックアイランドホテルで

軽い休憩の後

僕はいよいよ南太平洋の島々を飛ぶ

懐かしい路線に乗り換えていた

紙のように華奢に見える翼は

相変わらずよく震えている

この翼に僕はよく不安を覚えるが

どこまでも続く空と海原を見ていると

少し気が休まるのだ

途中で立ち寄る島々の空港は

まあ掘っ立て小屋のようなもので

滑走路は貝を潰したもので慣らしてあった

そんな訳で

離着陸時はよく揺れ

気が休まらない

やがて

コンチネンタルの機体は

南太平洋の大海原にかかる

日付変更線を越え

僕をあの懐かしい島へと

誘う

(つづく)

「日付変更線 (story6)」への2件のフィードバック

  1.  
     久しぶりに、スパンキーさんの小説を通しで読ませていただきました。
     どの章も、音楽とのマッチングがすごく素敵。
     「南の島」 「ゆったり流れる時間」 「かすかなセンチメンタリズム」 … そんなものが音楽と相乗効果を発揮し、とてもいい情感がかもしだされていますね。
     こういうの … 「サウンド・ノベル」 とでもいうのでしょうか。
     素敵な声を持つタレントが文章を朗読し、その合間に、こういう音楽が流れたら、カッコいいラジオ番組ができそうですね。
     小説のテーマも、実にクリアに伝わってきます。
     味気ない規律に縛られた都会の生活、それとの対比における “日付変更線” の彼方に広がるユートピア。
     その両者を比べるなかで、「人間にとっての幸せってなんだろう?」 という問いが静かに語られてきます。とっても読み応えがあります。
     ゴーギャンのエピソードが、ここでピリッと効いてきますね。
     で、主人公はジェニファーに再会できるのですか?
     この先の展開が楽しみです。
     

  2. 町田さん)
    あまり長いものを書いたことがないので、今回はかなり迷いながら書いています。
    特に、永年コピーの仕事をしていると、どうしても短文に神経を集中させる
    意識が働くので、マラソン文はキツイですね。
    所々に変な箇所もあるかと思いますが、スルーしてください(笑)
    しかし、書いて初めて分かる難しさも、これからの勉強になります。
    町田さんの言われる「サウンド・ノベル」という
    のは、ちょっとカッコイイですね?こうしたとらえ方をして頂けるのはありがたいです。
    確かに、ラジオで流すには面白いかと思います。
    いま電子書籍の世界では、音と映像を入れる試みをしているそうです。
    映画でもなくテレビでもない、新しいメディアができたら面白いですね?
    で、「僕」はジェニファーと再会できるかですが、なんといまここを書いています。
    かなりスローでいい加減でしょ?
    少々お待ちください!
    コメント、ありがとうございます。

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