遠い夏の日に

白い砂浜

淡いピンク色の貝殻が

ひとつ

忘れられたように落ちていて

まるでルビーでもみつけたかのように

ボクはそれを拾い上げる

空にかざすと

貝殻が透けて光る

渦のなかに

溢れるばかりの光をためて

貝殻は白い幻をつくり

ボクを招いたんだ

浜辺に寝転がり

今度は貝殻を耳にあて

そして

ボクは遠い夢をみた

あの町の雑踏と遠い潮騒が

きこえる

それは

町のはずれの

海辺の商店街だった

一軒の店の軒先で

のぼり旗が風になびく

「氷」と書かれた赤い文字

縁側に

ランニングと半ズボンの男の子

(ボクだった)

向かいで

キミはレモン色のかき氷をすくって食べている

二人の姿だけが

夏の日の景色のなかで

ぽつんと浮かび上がる

立てかけの葦簀に

おでん

どれでも5円の貼り紙

僕はちくわぶの汁をすすり

潮で冷えた躰を温めていて

脇にブリキの自動車のオモチャが

転がっている

まだ幼いけれど

ボクは初めてキミと二人になれたことに

胸が高鳴り

だけど

なにも話せない

(こんなボクのことを

キミは薄々知っていたんだろうね)

店の後ろの林で

相変わらずみんみん蝉が鳴いている

レモン色のかき氷をスプーンに乗せて

キミがボクの口元に運ぶ仕草をした

その後のことは

ボクはもうなにも覚えていないけれど…

二人はあの町で生まれ

やがて中学を出ると

僕は隣町へ引っ越し

数年ののち

キミのことを尋ねたら

どこかへ引っ越したらしいと…

いつも大きななみだ目

小さい唇

くるくるの髪の毛の

まるでお人形さんみたいなキミが

いなくなった

だけどね

いつかキミも

この砂浜で

この貝殻をみつけて

ボクのことを

きっと思い出すだろう

それは

いくら考えても

不思議な話だけれど

そういう事ってあるのよと

貝殻が

ボクに教えてくれんだ

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