忘れかけた詩

ひとつふたつ

ことばを紡ぐ夜は

忘れていた人を想い出す

まだ幼い笑顔

美しく

真っ直ぐだった

ただ

いまは灰になりけり

部屋に転がったオルゴール

木づくり水車のオルゴール

カラカラと回すと

五木の子守歌

忘れかけた遠い世界

いまはもうない僕の部屋に

美しい君がいた

加湿器の湯気が立ち上る

汽車の走る音

受験勉強の頃の自分がいた

あの頃

一体何の夢があったろう

いまは昔

或る夢砕け

それでも僕は歩く

真昼の酔い心地のように

かすかな三日月の輪郭

すべて忘れなさいと

自分に言い聞かす

春に聞いた初めての話

泣くしかなかっただろう

それはいまでも

波間の向こうに

あなたがいるような

宵の空を見上げたり

位牌に手をあわせるも

心むなしく

前を見よと教えられても

やはり戻り振り返る

自分がいた

やさしく強く

心正しく清く

そんな文句にそそのかされて

それでも

人は一途に生きているのに

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