私は店を閉めざるを得なくなり
山ひとつ向こうにある兵器工場で
働くこととなった
あれから数年戦いは続き
その戦いに
私と家族は疲れ果てていた
そして
街にも火の手が迫った頃だった
私は家族を連れて街を出たが
いく宛もなく途方に暮れていた
飢えをしのぐため
食べ物を探しに森へ入ると
木陰から
白いものをまとった老人があらわれたのだ
ふいに私が身を引くと
「やはり来たか」
と私の名前を呼んだ
老人は、手にパンを持っていた
老人は、このとき
私がここへ来ることは分かっていたと言った
私はその老人に尋ねた
「あなたは…
まさか…予言者ですか?」
「うん、そう言う者もおるな」
「ではこの酷い戦争が
いつまで続くのか
私に教えて頂けませんか?」
「よかろう」
と言って渋い顔になった
「ずっとじゃ、ずっと続くのじゃ」
「それは酷いことです」
「そうじゃ。酷いんじゃよ、人間はな」
「私は争いは嫌いです」
「そうじゃろうが戦争は続くのじゃ、だが
この争いを終わらせる方法はある」
そう言うと、老人は一切れのパンを
私の手に渡した
私は思わず老人の顔をのぞき込む
「その方法とはなんですか?」
「おまえじゃよ」
と笑った
「えっ、この私が…」
私はパンを入れた麻袋を手に
家族の元へ戻った
飢えは回避されたのだ
そして老人との事の顛末を話すと
他に望みのないもない家族は
老人の話を信じた
が、恐ろしい事が起こったのだ
或る日
母が食べるものを探しに
森へ入ったが
帰らぬ人となってしまったのだ
私たちは必死で何日も探し回った
が、見つかったのは
餓死した母の姿だった
戦火はいよいよ迫ってきた
みなは移動を開始していた
私はといえば
母を捜し回ったときのひょんな傷が元で
毒でも入ったのだろうか
ついに
歩けなくなってしまった
(つづく)