「恋は、遠い日の花火ではない。」
この格好良いフレーズは、
コピーライターの大御所、小野田隆雄氏の作品。
サントリーオールドのCMに使われたので、
ご記憶の方も多いと思う。
隠喩というか暗喩の妙が効いています。
理屈のみで思考すると、? となるが、
感覚を鋭敏にすると、分かる。
そのじわっとくる具合が、漢方薬のようだ。
このフレーズを最近になって再び思い出し、
なんだかほのぼのと嬉しくなった。
と同時にこの人の凄さを再認識した次第だ。
年をとると、恋はまさに、
遠い日の花火のように億劫になり、
ただ過去を思い出すのみとなる。
が、それを「…ではない」と
キッパリ否定してくれる小気味の良さ。
あなた、現役ですよと…
そっと肩を押してくれるようなやさしさがある。
なんだか、ハッとします。
このCMを初めて観た頃は、私も若造だったので、
意味も分かるし良いコピーだな、とは思ったが、
なにせ実感が湧かない。
こちら、恋は、間近の花火だったからだ。
要は、秀逸な広告としてアタマで捉えたに過ぎない。
しかし、小野田隆雄氏の代表作に
ゆれる、まなざし。
がある。これは小椋佳の歌になった。
また、
時間よ止まれ、くちびるに。
が、矢沢永吉の同タイトル曲にも起用され、ヒットした。
そして、世良公則&ツイストのヒット曲「燃えろいい女」の歌詞中に出てくる
ナツコだって、
小野田さんの案だったらしい。
この頃の資生堂のナツコの夏キャンペーは、
ほとんど彼から発信されている。
こうして振り返ると、
彼は幅広いターゲットに対応できる、
各層をそれぞれ鋭く切り取ることができる、
希有の器用さを備えたクリエーターだったことが理解できる。
その手法は優雅であり、人を惹きつける。
フレーズの隅々にまで、詩の匂いが漂う。
この表現の豊かさが、
きっとイマドキの広告表現にはない。
あれからせっせと時代が変わり、
広告の手法も変わった。
その変化をいち早く掴むのも、
我々の仕事である。
しかし、なにかが足りない。
売ろうとすればするほど、気が逸る。
そして、みな、
なにかが見えなくなっているのだ。
それは、きっと人をみつめるまなざし、
なのだろうと思う。
やはり原点は、不変であり、普遍だ。
それが、愛なんだろうな…