夏の印象

蝉が泣きやまない寺に

見慣れた顔が集まる

皆 汗を拭きながら

差し出されたお茶で

ひと息つく

エアコンがうなっても

涼しさもない

待合いの和室

どこも

扇子を忙しげに動かす

やりきれない暑さのなかで

テーブルの上に

見慣れた位牌が

すっと置いてある

こんな夏だった、と思う

いろいろなことを思い出しては

その記憶が薄れてきていることが

せめてもの救いなのか

誰もこれといった話題もなく

本堂にそろそろと移り

じっとりと流れる汗を拭うこともなく

皆が座して神妙な顔になる

線香の煙が立ちのぼる

住職のお経は

首の長い扇風機の風に乗って

境内の日差しの中に

消えてゆく

本堂に飾られた曼荼羅を眺め

来年の夏は親父の七回忌なんだな

と思う

親父も暑い日の朝にいなくなった

なぜみんな暑い日にいなくなるんだ

とうばを担いで墓に移動し

そして

墓石の前にしゃがみ込んで

線香に火を点けようと

下を向いていたら

程なく汗が噴き出して

止まらない

最近、夏は嫌だな

と思うようになった

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