最初、ラーメン屋のすげえ店主とタイトルをつけたら
全然面白くないので、すげえラーメン屋とした。
ネタばらして書くのもなんだが、
このラーメン屋のスープが絶妙にうまい訳ではない。
シコシコ麺じゃないし、チャーシューでもない。
没タイトルの通り、あるラーメン屋の店主の頭脳と
おぼしきものがすげえんである。
まあ、カウンターとテーブル席あわせ、
20数人は入れる店なのだが、週末の昼に入るとほぼ満席。
過去に数回入ったが、なかなかうまいラーメン屋ではある。
しかし、24時間かき回せ続けたスープとか、
純国産小麦に徹底的にこだわったとか、
チャーシューへのこだわりが命より大事とか、
そんなんでは全然ない。
まあ、ほどほどにうまいんである。
「これは時間がかかるなぁ」などとため息まじりに
空いているカウンターに座り込み、
なんとなく、味噌ラーメンなんかを頼んだ訳である。
店内は子供もいてザワザワしている。
鼻をかんでいる爺さんのグループが
笑顔で若いころの自慢話をしている。
ペンキ職人らしい3人組は相当腹を減らしているらしく、
店主の一挙手一投足をじっと凝視している。
基本的にここは腹をへらした奴ばかりなので、
なんだか店内は妙な殺気も感じられるのだが、
店主はそんなことは全然気にしていない風にみえる。
というか、アルバイトの女の子に
ときどき冗談なんか飛ばしてる。
割と広めのラーメン屋なのに、
この店は店主とこの女の子の二人で切り盛りしている事に
ハタと気づいた。
で、これは味噌ラーメン遅いぞなどと思っていたら、
すげえスピードで次々にラーメンができあがるではないか。
ギョーザもひゅーひゅーとできあがる。
以前来たときはまるで気がつかなかった情景である。
よくよく観察すると、
店主の手はすげえスピードで動いている。
しかも次々にお勘定を払うお客と入り交じる。
注文する客も野菜ラーメンふたつ。
で、ひとつは麺かためねぇーとか、
ビール一本くれとか、いろいろ言っちゃうのだが、
店主は、どの席の誰が何を食ったか把握していて、
お勘定するお客に幾らと、微笑みとすげえ暗算で返す。
その間、手はすげえスピードで働いているし、
ささっとお金のやりとりを済ます。
同時に次々に飛んでくるオーダーにも微笑んで「へーい」と応え、
それが全然間違ってない。
で、気がついたのだが、
アルバイトとおぼしき女の子はというと、
この子はとにかく洗い物しかしていない。
ひたすらスローにどんぶりを洗っているのであるからして、
あとはすべて店主がやってのけている。
外見的に、ちょっと昔グレチャッテサ、という風貌で、
歳は40代半ばといったところか?
働きざかりである。
がしかし、この人のあたまのなかはどうなっているのだろう、
とふと考えてしまったのは、私だけだろうか。
過去に私はコーヒーショップでバイトをしていたことがあって、
そこでの注文で記憶できるのは、せいぜい4品だった。
すげえ記憶力が弱いんである。
だから余計にこの店主の技と頭脳に驚いてしまうのだが、
実はこの店主が数学の先生だったらとか、
もっと若いころに東大の受験生であったならとか
アレコレ想像するも、
風貌から醸し出されるるイメージは、
どっからどうみてもラーメン屋の店主が
ピタリと一致するのである。
で、全然関係ないが、昔、あのドイツのBMWの事を
「羊の皮を被った狼」と、みんなが評していた。
いや、宣伝か?
とにかくあの車をみていて、
確かに的を射ていると思った覚えがある。
結構うまいみそラーメンだったなぁなどと、
ごきげんで国道を走りながら、
あの店主をBMWばりに考えてみたのだが、
頭に浮かんだのは、
せいぜい「ヤンキーの皮を被った数学博士」だった。
また、つまんないものが浮かんでしまった。
それにしても、デキル男なのであるよ。