M546星雲

遠く銀河系のM546星雲から
僕の脳に指令が下ると
やおら起きあがり
パソコンのスイッチをONにする

真っ白なメモ帳に地球に関するレポートを
今日もひとつ記さねばならないので
昨日の酒場での出来事について
一言記する事にしたのだが

その酒場でのオトコとオンナのやりとりを
報告したからといって
このレポートが一体どういう意味をもつのか
僕にはさっぱり理解できないでいる

人の生態についてアレコレ知りたいのだろうけれど
こっちもそこの所は心得ていて
適当にアレンジを加えてはレポートを書き上げる

さて
このレポートを送信すれば僕の今日の仕事は終わりなのだが
再度指令が下ったので
そのネタを集めに街へ出ることにした

マックでチーズバーガーとコーヒーを頼み
窓の外を眺めながら
隣のカップルに耳を傾けなければならない

赤いルージュをひいた痩せ形のオンナが
オトコに
「で、そのふたり、どうなったのよ」
首からじゃらじゃら銀のアクセサリーをぶら下げたオトコは
「それはおまえもラストを観なくちゃ」

コーヒーの味が残る氷をかき混ぜながら
ノートパソコンを開き
僕はレポートを書き進めることにした

マックを出て上を見上げると
空はすでに陽も落ちて
下弦の細い月が西の空に霞んで浮いている

銀河系M546星雲

この星のレポートがM546星雲にどういう影響を与えるのか?

僕は毎日レポートを送信し続けるのだが
それに対する回答、感想などというものは
返ってきた試しがない

こうやって毎日が過ぎ
レポートを送り続ける僕なのだが

なんだか空しくなって疲れた日は
レポートも止まる

活動を止めたからといって
向こうから何を言ってくる訳でもないこともあるので
あとは指令が下るまで深く深く眠る

M546星雲は遠い遠い空の彼方にある
M546星雲は永遠に耀く星らしい

だからいつも僕は祈るのだ
だから僕は送信し続けるのだ

M546星雲に幸アレ
M546星雲よ永遠ナレ

M546星雲ではみんなが僕を待っている
M546星雲にはジョン・レノンもいるな

そして
ちいさい頃、僕の大好きだったおばあちゃんも
相変わらずあの星で
今頃畑仕事をしている

「M546星雲」への7件のフィードバック

  1. M546星雲なんてタイトルの割に、やけに現実的。
    マックのチーズバーガーなんて単語からは、生活臭がプンプンする。
    だけど、M546星雲とは結局、何なのか?
    そんな疑問を抱えたまま物語は終わってしまう。
    ある人にとっては神かもしれないし、ある人にとっては理想の楽園なのかもしれない。
    多分、人それぞれのM546星雲があるのだろう。
    何にしても、
    やるな~スパンキー。
    詩もいいけど、ショート・ショートもいい。
    どんどん書いて欲しい。
    新たな境地を開拓や!
    次回作も期待。

  2. M456星雲には、かつてこっちの世界にいた人たちが移住して、M456星から現世の人間の様子を偵察しているのかな?とか勝手に色んなバージョンの想像をしてましたww
    私も、ちょうどこの前、人と宇宙についてのちょっとマニアックな話を読んだんですよ!!
    で、今さらながら私たちも宇宙人だったんだっ!!って結論に至りましたw(ホントかな?w)
    なんか、天の川なんとかってとこの近くの惑星の中の1つで地球が誕生して、そこで人間ができたとかなんとかで・・・難しくてよく分からなかったんですけどねww
    でも、みんなそれぞれ自分の中に宇宙って持ってるんでしょうね★
    話かなりそれちゃったんですけど、スパンキーさんのお話面白かったです♪
    また、楽しみにしてます☆

  3. あっ・・・M546星雲だっ・・。
    間違えちゃいましたぁ><
    すいません。。

  4. 祐介さん>コメント、ありがとう。新たな挑戦なのですが、
    ある人にとっては神かもしれないし、ある人にとっては理想の楽園なのかもしれない。
    多分、人それぞれのM546星雲があるのだろう。
    その通り。誰もがもっている遠い世界、それが私にとってのM546星雲なのです。
    ちょっとSFチックに過ぎたかな?

  5. ゆかちゃん>コメント、ありがとう。
    みんなそれぞれ自分の中に宇宙って持ってるんでしょうねーーーーというように、私にとってのこの話の世界は、「あの世」なのかな?
    たとえば、宇宙という衣を着た「神仏の世界」。
    そんなものに私はいつも惹かれてしまう。
    うーん年なのかなー?

  6. 「M546星雲」は、スパンキーさんの新境地ですね! 
    特に、前半。地球に派遣された通信員の、すこし疲れたような、やるせない虚無感が描かれていて秀逸です。
    なんだか、缶コーヒー「ボス」のCMに出てくるトミー・リー・ジョーンズの演じる宇宙人を見ているような…。
    1960年代の後半に流行った不条理劇を見ているような雰囲気もあります。
    主人公が、いま与えられている仕事を、何のために続けなければならないのか、主人公も、誰も分からない。
    仕事の継続を指示する組織も、実在するかどうか分からない。
    この前半の雰囲気をずっと貫いていけば、小説としての完成度を高めたショートショートになっていたでしょう。
    でも、今回は、「ジョン・レノン」と「おばあちゃん」を出すことで、ポエムの領域の方に入っていきましたね。
    小説とポエム。
    どちらの可能性も開けている素敵な作品だと感じました。

  7. いやぁ、町田さんにみてとられたな!
    ギャップをどのくらい出すか苦労したのですが、ナカナカそのさじ加減がムズカシイ。
    ショートショートにするかポエムにするか?
    次回で決着しますよ、きっと。
    乞うご期待!

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