母のこと

ものごとって

すべてはあらかじめ決まっているのだろうか

やはり

奇跡は起きなかった

その絶望のことばをきくと

医師の顔をまじまじと凝視してしまう

果たしてこの人と母は 

私は

どうした巡り合わせ

どんな縁なのかと…

母は

美しく白い顔で横たわり

その眠るような頬にふれると

まだあたたかく

実は生きていて

再びどうしたのと

起きてくるような気がして

緊張の箍が外れると

悲しみが一気に溢れ

母への思いがこみ上げて

揺り起こせば

再び目を覚ますような気もするのに

あぁ

母はきっともうここにはいないんだな…

明け方に病院を出ると

外の空気は凍てついて

吐息は白く流れ

空を見上げると星が瞬き

異様に蒼白い満月が煌々と

立ち尽くす私たちに降り注ぐ

母にありがとう

産んでくれてありがとうございますと

そんなことばを呟いて

そんなことしか考えられず

驚くほどに

心身が脱力して

肩が緩んで

街が目覚める朝近く

私たちはタクシーへと乗り込み

夜明け前に国道を疾走する

その後部座席からウィンドウのガラス越しに

私は

凍れる街の流れる灯りを

スクリーンのように

ただなにも思わず

眺めていた

(去る11月29日の早朝に母が他界致しました。事情を知っている方には
いろいろとご心配をおかけしました。この場を借りお詫び申し上げます)

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