冬のキツツキ

最後の枯れた一葉が

枝を離れる

やがて葉の舞が止まると

静子は足元に目をやり

歩きだした

この町は

むかし愛したことのあるおとこが

暮らしていた

駅に向かう歩道の両脇に

街路樹が整列するように植えられている

そのひとつひとつが

静子に冷たい視線を投げているようで

足は徐々に速まる

初めてこの町を歩いたとき

傍らにそのおとこがいて

公園でもいかないかと

静子を誘った

思えば

あのときも冬だった

まる裸の木々の枝の

しなやかな伸び様が

傾く陽に

濃い影を映していた

そして

誰もいないはずの公園に

コンコンコンと乾いた音が

響き渡る

おとこが公園の奥の木を指さす

大きな楡の木が

豊かな枝を広げ

太い幹に

小さな鳥がしがみついた

盛んに嘴を動かす

静子はじっとそれに見入った

おとこはその鳥の姿に慣れている風で

静子を見て笑っていた

その鳥を

静子は

そのとき初めて見た

ひび割れた模様のその幹に

鳥は幾度も幾度も嘴を突く

木片が飛び散る

それがなんという鳥なのか

なにをしているのかと

静子は思うのだが

深く考えようとはしなかった

そして

それをおとこに

尋ねようともしなかった

マフラーに手を絡め

足速に歩きながら

静子はあのときのことを

考えていた

あのおとこは

私のことを本当に

愛してくれていたのだろうか…

駅前のターミナルの雑踏で

静子はふっと我に返った

駅舎に入ると

暖房と人の熱気で

息苦しさを覚えた

改札を抜け

人の列に流されるように階段を降りながら

もうこの駅には二度と降りないだろうなと

静子は思うのだ

無意識に噛みしめた唇から

少し温んだような血の味がした

「冬のキツツキ」への2件のフィードバック

  1. 実にうまい !
    これは素敵ですねぇ。
    少し悲しげな短編小説でも始まるような書き出し。
    いわくありげな過去が少しずつ浮かび上がってくる。
    過去の男との関係を、女はどう清算しようとしているのか。
    いろいろな謎がせり出してくるその瞬間を捉え、話がストンと終わる。
    その終わったところに、読者がまったく予想もしなかった結末が、とつぜん立ちはだかる。
    それが竹内まりあの 『駅』 の動画なんですが、この動画のアップが、その前半のストーリーをすべて吸収して、鮮やかなエンディングになっていますね。
    びっくりするほど見事な構成です。
    脱帽 !!
    これは、まさに音楽を自由につけられるブログゆえの新しい文芸形式なんでしょうね。
    新しい小説スタイルの創造ですね。

  2. 町田さん)
    ちょっとそこまで褒められると、恐縮してしまいます。
    全然叶いませんが、ロードムービーっていうのに興味があり、
    いろいろ観たんですが、つくるとなると金かかるだろうな、と。
    で、ネットも発達しましたし、この媒体はなんだかお金をかけず、
    いろいろできるなと…
    例えば電子書籍ですが、いまいろいろほうぼうでやっていまして、
    動く電子書籍(背景に雪が降っている動画を入れる)とかあって、
    これは私的には全然好きではないのですが、探ればまだまだ
    可能性があると思います。
    ひたすら文字のみというのも、想像力を掻き立てて味わいがありますが、
    ブログの強みは活かさないとと思います。
    いつも、コメントありがとうございます。

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