ありふれた恋

約3年前

あの砂浜に落とした

18金の涙のカタチをしたごく小さなペンダントを

最近になってやはり探しに行こうか

そんな事を考え

久しぶりに海へと出かける

その砂浜は扇形に遠くまで広がって

向こうの端が遠く霞んでいる

風の強い日だ

流れついた木の枝を適当な長さに折り

砂を突っつきながらボチボチと探し始める

うつむき加減に独り砂浜を歩く僕の姿を

他人の目にはどう映るのだろう

もうすぐクリスマスだというのに

僕に祝う相手はいない

集まる仲間はいるけれど

やはり今年は独りでいよう

コートの襟を立てても

首筋を通り過ぎる浜風の痛さが

身に沁みて

その冷たさに悔恨の念が少しづつ膨らみ

そんなペンダントはとっくのムカシに

他の誰かに拾われたか

潮がさっさと持ってったと

やはり浜風が笑いながら

そして耳元で囁くのだ

子供のようだった僕は

よく人を傷つけ

それに気づくこともなく

ただ通り過ぎてゆく人間だったのだろう

それは悪意のない分

余計に質の良くない事なのだが…

そしてそのありふれた恋も

結局相手の意を汲むことなく

僕のなかではひとつのゲームとして

それなりに楽しめたのだが

やはりゲームセットが近づくと

僕はいつもの通り

次のゲームに夢中になっていたのだから

この砂浜のなかのペンダントは

きっともうみつからないだろう

そしてこうして夕暮れまで探し続けて

夜は冷え切った躰を

どこかの店の安いコーヒーとハンバーガーで

癒やすのだろう

ひとつづつ

少しづつ

オトナになってゆく

失ってゆく

忘れがたいものに変わってゆく

年をとる

そしてどうでも良くなって

すべてを忘れて死んでゆく

夜の海の沖の遠く

黒い空と混じり合うあたりに

きらりと光る灯りが見えて

それが果てしなく遠く思うのは

思えば

あのありふれた恋のひとつと

なんら変わらない事なのに…

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