夏の夕暮れのウスバカゲロウ

ある夏の夕方のどしゃぶりのあと

新しくオープンしたホームセンターへとでかけた

天候のせいか、店内は人もまばらで

広大な建物のなかはがらんとしている

巨大ホームセンターの周辺はまだたっぷりと水田が広がっている

確か以前ここは見渡す限りの水田だった

店はその真ん中に鎮座する

蛍光灯の強い光りのもと

広い売り場をとぼとぼと歩くが

溢れる商品の多さに

目的の探し物が何だったのか忘れてしまった

誰もいない膨大な商品棚の通路を

なにを間違えたのか

ウスバカゲロウがひらひらと浮遊している

不安定で頼りないその飛行は

徐々に高さを失う

心許ない命の終さえ予感させる

ここはもう水田じゃない

そして君の帰る場所などもうないのに…

ウスバカゲロウは

プラスチックのキッチン用品にとまり

次第に飛ぶ力も果てて

テカテカに光っているタイルの上ほぼ10㎝あたりを

彷徨っていた

あれから僕もいろいろなことがあって

季節はすとんと

まるで手品みたいに移り変わる

あちこちに赤とんぼが現れたススキの頃

涼しい風に吹かれて

高い空に吸い込まれるように

心地よく歩いていると

やはり秋は思索を誘うから

あの夏の夕暮れに遭遇した

巨大ショッピングセンターのウスバカゲロウの行く先を

つい考えてしまうのだ

「人間なんて所詮は

この世の窓辺にとまるウスバカゲロウみたいなもの」

作家ケストナーが放ったことばが刹那的だ

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