地下鉄13番Bの出口を出ると
ひゃっとする風が首筋をなでて僕は覚醒する
そういえばずっと寝ていたんだっけ
ぼおーっとするような生暖かい車内では
誰もが居眠りをしていた
僕は角がくすんで折れた文庫本をずっと読んでいたんだけど
いつの間にか寝てしまったんだ
ふと目が覚めたときも車内は僕以外みんな寝ていた
その古い本はとても面白い物語で
世界が突然消えてしまうという
恐ろしいけれど
最後の最後にヒーローが現れて
僕らをユートピアへ導いてくれる…
いや いまはまだその結末は分からないけれど
きっと助けてくれる
そう信じていままでこの本を読んできた
地下鉄13番Bの出口は
以前は大通りの角にあって賑やかだったけど
いまはもう驚くことにすべてが草原になってしまった
一体なにが起きたのだろう
なにがあったんだっけ
地下鉄13番Bの出口
そのことはもう誰も知らないし
誰に聞くこともできない
まわりを見渡しても誰もいない
みんなどこかへ消えてしまった
そういえばあれから3度目の冬だ
凍るような風がひっきりなしに吹くので
僕の体温はみるみる低下している
見わたすとあたりに高い建物はなにもない
葦(あし)が群生するその向こうには寒々とした草原が広がり
その遙か先に煙がのぼる火山がみえる
僕はあの約束どおり
約束の年 決められた日に
地下鉄13番Bの出口に辿り着いたんだ
息を整える
拳をぎゅっと握ってみる
そして僕は
角がくすんで折れた文庫本をぎゅっと握りしめ
葦のなかを歩きはじめた
めざすはあの遠い火山の麓のまち
いま僕がいくところはそこしかない
ところどころがかすれた文字
あやうい物語
なのにいま頼るものはそれしかない
この結末はまだ分からない
けれど僕がこれからつくるストーリーは
きっとやさしいに違いないのだが…