ショートショート「人間、如何に生きるべきか」

或る占い師が言うには

水の近くに住みなさい

水はあなたに欠かせないもの

そして足りないの

水の近くに住みなさい

同じようなことを

他の占い師数人にも言われたので

インターネットで

水の近くの物件を探すと

ここから遠いところばかりだった

みんなさよなら

僕は湖の見える高台に引っ越した

そしてそこで暮らすことにしたが

毎日が退屈だったので

釣りを始めたりボートに乗ったりもして

知り合いもできて

僕は満足だった

その湖が見える高台の家の隣には

初老の女性が住んでいて

或る時

その方と立ち話をする機会があって

とある高名な哲学者の奥さんだそうで

僕のいきさつを話すと

あなた

そんな人生がありますか

哲学を持ちなさい

あなたは本当はなにがしたいのと尋ねるので

そうですね

熱中できるようななにかがしたいですね

こう話すとご婦人は

とにかくウチの主人の大学へいらっしゃい

僕もそうだなと思い

再びこの家を引き払い

小さな町のアパートを探して

この町の大学へ通うことにした

大学の哲学の講義は

僕にはとても新鮮で

人は如何に生きるべきかを

論理的に分かり易く教えてくれた

こうして私の人生は

その意味が明確になったようだったが

そうこう哲学しているうちにお金が底をつき

人生は如何に生きるべきかなど

呑気なこともいってられず

住み込みの職を得るため

地下鉄が張り巡らされた街へ出て

一軒の中華料理屋で働くことになり

水のことが少し気になったり

如何に生きるべきかと

考え悩みながらタンメンを運んでいたら

お客さんにうっかり熱いツユをこぼしてしまい

店のご主人に

今度こぼしたらクビだぞと

言われてしまった

その中華料理屋は私鉄出口のすぐ前にあって

夜中まで繁盛しているが

毎週月曜の休みの日は

どこからともなく人が集まって

みんなでお経を読む会が開かれていた

僕は休みなのにこの会に駆り出され

みんなにお茶を配ったり

線香の煙を絶やさないようにと言われ

そのことばかりが気になり

ずっとみんなのお経を聞いていたが

そのうちお経を丸覚えしてしまい

じゃあというんでみんなが僕を前へと引きづり出し

君のお経への理解は並ではないねと言われ

自分なりの解釈を恐る恐る話すうちに

「この青年はただ者ではないぞ」と中のリーダーが

なんと私を本部へ推薦してしまった

そこで丸3年の修行のようなものを積まされ

次に君がこのお経を広めるべきところはここだ!と

地図で指さした所は私が以前ずっと住んでいた町だった

僕はその町でお経を広めることを始めた頃

幼なじみの同級生は僕をよし坊と昔のあだ名で呼び

馬鹿にしていたがやがて

僕の哲学的お経の解釈や

占いを混ぜたような予言をつぶやくと

次第に僕を先生と呼ぶようになっていた

そして人間として如何に生きるべきか

その意義と尊厳と題して聴衆に話す度に

僕は日に日に有名人になってしまった

僕は8年ぶりに生まれ育った町に

再び住み着いたのだが

このように先生先生と呼ばれるようになり

いまではテレビでも引っ張りだこの

全国的な人気者になってしまったが

僕の人間如何に生きるべきかという悩みは依然消えず

相変わらず

以前の占い師さんに

結構なお話を頂く日々なのだ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.