幼いわかれを携えたまま
僕は地元の中学へと入学した
相手の子は電車に乗って
遠い有名中学へと通ったらしい
初めてのわかれのようだった
ようやく
そんな悲しみも消えかけたころ
僕は偶然
校庭でみかけた女の子に
恋をしてしまった
同じ学年だったが
僕はその細身の子を
初めて見たような気がした
髪を肩まで伸ばし
先がくるっと外側に跳ねている
黒い魅力的な瞳が印象的だった
陽が
校舎を赤く染めた或る放課後
僕は意を決して
その子に話しかける
キシキシッと鳴る長い廊下を走り
背後から
僕はその子に声をかけた
必死だったので
僕の息は切れかかっていた
「あの、ええっと
こんにちは!
あの…
このレコード知ってる?」
「えっ、なに?」
その子の腰が退けた姿に
僕の喉は
よけいにカラカラになった
「あの、こ、このレコード、
知っています?」
「これ、ええ、知っているけれど…」
「良かった!
じゃあ、これあげるよ」
「エッ!」
その子は栄子という名だった
髪を触りながら
黒い大きな目を更に大きく
まるくした栄子さんが
レコードに触れながら
呆然と僕を見ていた
それからのことは
よく覚えていない
とにかく
僕は栄子さんにレコードをプレゼントすることに
成功した
僕はとにかく走った
気がつくと
仲間に頭をこづかれたり
撫でられたりしていたから
なんとか無事に教室に戻ってきたんだ
「ついにやったな!」
「…駄目だよ、やっぱり無理。
あんな綺麗な子…」
「そんなことまだ分からないだろ?」
「………」
その頃
僕はいろんな音楽を片っ端から
聴いていて
ラジオから流れてくる曲や
流行のレコードならなんでも知っていたし
お小遣いのすべてを
録音機器やレコードにすべて費やしていた
栄子さんを初めて見かけた
あの運命の日も
僕はそのときめきを
どう表現しようか迷ったが
結局その表現方法も分からず
ふと思い出したのが
僕の気持ちを代弁してくれる
レコードだった
こうして
少しおとなに近づいた僕は
もう
あの淡い別れはすっかり忘れて
水面に揺れ動くような
胸を揺さぶられる恋を
生まれて初めて体験した