だいぶ以前の話。
夕飯を食いながらテレビを観ていた。
たまたまつけたチャンネルが、歌番組だった。
テレビは、実はどうでも良かった。
気晴らしに観ただけだった。
はじめは聴き流していたが、
ふとその歌詞が気になりだした。
そしてじっと聴き入ってしまい、
しまいに、涙が溢れた。
ああ、
年をとったなと思った。
懐メロは幾度となく聴いてはいたが、
あまり古いものは知らないし、
そうした歌は、私の親の世代の歌のように思われた。
二葉百合子の「岸壁の母」も、
私の親の世代がよく唄った歌だろう。
敗戦後、ソ連からの引揚船が着くたびに、
岸壁に立って息子の帰りを待ちわびる
母親の姿と心情を歌っている。
(この歌は実話を元につくられた)
私は若い頃から、
この歌がテレビから流れると、
陰気な気分にさせられた。
そして、すぐチャンネルを回していた。
大嫌いな歌だった。
私は、戦争を知らない子供たち、のひとりだ。
しかし、こうして中年になり、
両親もいなくなり、
また人の親となって永く生きていると、
なにか他の景色がみえてくる。
それは流行りものでなく、
浮き沈みするようなものでもなく、
情というか、
人生に対する愛おしさとでもいおうか。
人ってつくづく不思議な存在だと思う。
いろんなものを背負って
そしていつかは去ってゆく…
生きるおかしさも
捨てたい悲哀も、
人は抱えきれないものを
幾つも幾つも背負い、
一体、何処へ行くのだろうかと…