金縛り

 

夜中にふと目が覚める。

 

ちょっと驚く。

いつもはそんなことないから。

 

ふとんをかけて寝ようとすると、

なにかがおかしい。

身体が動かない。

ウッと唸ってしまった。

 

どうもベッドのまわり、

部屋の気配が

いつもと違うことに気づく。

 

誰かがいる。

そう思う。

 

そういえば、

少し前にすーっすーっと、

スリッパを擦る音がしたことを思い出す。

 

動かない身体が、

余計に固まってしまっていた。

 

横向きで寝ていたので、

その何者かは私の背後にいる。

目だけは動くので、

目の前に誰もいないことは、

確認していた。

 

どのくらい経っただろうか?

数分間。

いや、ほんの数秒なのかもしれない。

身体は相変わらず動かない。

特に首と腕が顕著だ。

いくら力を込めても全く動かせない。

 

そうこうしているうちに、

今度は、

全くそれを怖がっていない自分に気づく。

 

(おふくろだろう?)

 

その勘は、瞬間的に確信へと変わっていた。

何も話しかけてはくれない。

触れもしない。

 

だけど、じっとこちらを見下ろしているのが、

笑顔で慈しむように見守ってくれているのが、

分かった。

 

この場合の分かった、というのは、

客観的に検証すれば、

私の思い違いなのかも知れない。

そんなことはどうでもいいことと、

いまでも思う。

 

(おふくろ!)

 

声が出ない。

 

もう一度だけ、顔がみたいと思った。

なんだかあったかいものが溢れ出て、

止まらない。

それがほんの一瞬だったのか、

とてもながい時間だったのか、

いくら思い返しても分からない。

 

そして身体がふわっと緩んできた。

 

(相変わらず水くさいなぁ、おふくろ)

 

友人からきいていた金縛りってこれかと、

なんだか深く納得してしまった。

そして、涙を拭いて、

ふとんを被った。

 

むしろというべきか、

サッパリとした心地になっている。

 

(おふくろ、ありがとう)

 

こうしてなにごともなかったように、

朝までよく寝た。

 

3年前の初秋こと。