日付変更線 (story4)

前号までのあらすじ

(島でエンジントラブルの

僕を助けてくれたジェニファーと

食事の約束を取り付けたのはいいが

バイクを借りたホテルのボーイから

意外な話が…

それは彼女にまつわる

雑多な話題なのだが…)

昼間の熱気が籠もった車内

僕は窓を全開にして

南へクルマを走らせる

遠くのリーフから

珊瑚礁にぶつかる波が夕日に光る

島の突端に

確かにカープレストランはあった

レストランと言っても

古い船を改造した停留船であり

道路沿いにはちっちゃなネオンひとつしかない

打ち寄せる波に揺れた階段を降りて

船内へ入ると

窓際のテーブルにジェニファーが座っていた

彼女が振り返る

ブルーの縦縞のワンピースが揺れ

初めて彼女が微笑んだ

「ハーイ」

「先に来ていたんだね、今日は来てくれてありがとう」

先日とは打って変わって

彼女は女性らしい仕草で僕を迎えてくれた

「そのワンピース、似合うね?」

「ありがとう」

笑顔がこぼれる

二人で

フィッシュチップスとココナッツジュース

バドワイザーとピザを注文すると

ジェニファーが

夕陽が素敵なのよと

船窓のガラス越しに外を指さす

僕もつられてのぞきこむ

水平線がきらめいて

遠い島々が夕陽に照らされ

それぞれがシルエットになって

影絵のように揺らめいている

「サンセットはいいね」

「ええ、わたしはこの島の

この時間が好き。ここの夕陽は

フロリダもかなわないのよ」

ブルーのワンピースが

夕陽のオレンジ色に照らされて

不思議な彩りをみせた

彼女の揺れるようなまなざしも

憂いに満ちているように光る

「アメリカに帰りたい、のかな?」

「えっ、何て言ったの?」

「いや、今日のジェニファーは素敵だねって」

「そう、ありがとう

あなたは、そう、まあまあね」

ジェニファーがケラケラと笑う

僕は彼女に

先日のお礼を丁寧に伝える

そして僕の仕事が

ジェニファーと同じ広告関係と知ると

彼女はとても驚き

人は見かけによらないわね、とまた笑う

船窓の向こうは次第に暗くなり

ふたりは店の飾り付けを眺めながら

島のたわいない話をする

ビールをジンに変え

私も飲むわと彼女が言った頃には

港に浮かぶブイの蛍光塗料だけが光って見えた

フォークでヌードルを啜っていた

外人の団体さんも帰り

店内はふたりだけとなった

そして僕たちは

日本とアメリカの広告表現について

話が盛り上がっていた

彼女がコカコーラの日本でのプロモーションを

聞いてきた

が、僕はふいにそれを遮って

例の話を切り出してみた

「で、彼氏は元気なの?」

「ええ、元気よ!

あの最低の彼ね」

ストレートな物言いだった

「ジェニファーの言う最低の彼って

一体どんな奴なんだい?」と僕

「うーん、そうね。規則をしっかり守る

誠実な人ってとこかな」

「それが最低?」

「そう、最低」

「ふ~ん」

僕とジェニファーは

それからジントニックを3回注文し、

すべてそれを飲み干した

「このジントニック、ジンが少ないわ」

とジェニファーが言う

「いや、かなり酔いが回ってきているぜ」

「あら、あなたサムライじゃないの?

サムライはサケに強いと聞いたわ」

「僕はサムライじゃない、

僕はね、根無し草なのさ」

ジェニファーがケラケラと笑う

ふたりはそれからニューヨークアートや

やはり広告の話に戻り

クリエイティブに関することで

話が長々と続いた

彼氏に関する話題は

例の彼女の一言で終わっていた

カウンターの横にあるジュークボックスにコインを入れ

僕とジェニファーは曲を探す

「ここはやはりクラプトンね?」

「いや、サンタナだな」

「クラプトン聴きたいわ」

「しょうがない、譲るか」

店内に「Change the World」が流れ

片付けが終わったマスターが

踊ったらと、笑いながら目で合図をする

僕はジェニファーの手を取り

彼女を誘う

メローな音に酔うように

彼女がステップを踏む

そして彼女が語りかける

「あなたは、あまり規則なんか関係なさそうね?」

「規則?

規則は守るためにある!

いや、破るためかな?」

彼女がまたゆっくりと微笑んだ

「君は笑っている方がいいね」

「そう、ありがとう」

店を出ると何もかもが見えない程に暗く

港に浮かぶブイだけが光っていた

「今日は新月、おまけに曇りね」

「どうりで何も見えない。けど、新月は

ものごとの始まりを意味する。

僕らはどうだい?」

彼女はそれには答えず

僕に近寄る

そして

ふたりはずっとキスした

(つづく、かも…)

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