コピーづくりの現場

広告の仕事をしていてよく思うこと。

それは、コピー軽視です。

特に、キャッチコピーを軽んじている人の

なんと多いことか。

対して、デザインは比較的分かり易いので、

皆さん、アレコレ口を挟みますし、

こだわっているようにみえます。

デザインは、誰もが大筋は判断できるのでしょうね。

格好いいとか、都会的とか…

が、デザインに於いても、

それがコンセプトに沿ったものかどうか、

本来、そこを考えなくてはいけないのですが…

しかし、これがコピーとなると、粗末な扱いとなる訳です。

検討以前となってしまうこともあります。

適当に誰かが書いて、それがそのまま最後まで残り、

掲載されてしまうことも少なくありません。

ボディコピーは、作文の添削と同傾向にあるので、

そのコピーがその場に相応しいかどうかではなく、

一応、みなチェックはします。

しかし、この場合も、

日本語として正しいかどうかのみ、で終わってしまう。

制作する側でも、一部でこのコピー軽視の傾向があります。

こうしたクリエーターは、世の中には大勢います。

だから、フツーの人はなおさらでしょう。

しょうがないといえばそんな気もします。

では、なぜ人はキャッチコピーを軽視するのか?

そう、答えは簡単。

分からないからです。

割とみな分からない。

で、私たちコピーライターの出番なのですが、

そもそもキャッチコピーの力を信じない人に

その重要性を説いても無駄なのです。

デリカシーのない人に、私も無理強いはしないようにしています。

コピーが元々広告の添え物であり、

そこになにか書いてあれば良し、

要はどうでもいいもの…

そう思っている人は多いのではないか?

が、これは甚だしい間違いです。

本来、人はことばで動いています。

自らの過去を振り返っても、

ことばひとつで勇気づけられたり、

傷ついたりした経験がいっぱいあります。

或るひとことで愛しあう。

或るひとことで涙を流す。

かように、人の心も、ことばで動くのです。

ことばって、割とパワーがあります。

それを突き詰めたのが、経典なのかも知れないし、

呪文なのかも知れません。

これを、人は言霊と呼んでいる。

人が本気で口にしたものには不思議な力が備わる。

また、そうしたことばが、ひとり歩きをしたりもする。

一例ですが、

あのお笑いタレントのスギちゃんが流行らせた

「ワイルドだろ~」も、そんな気がしないでもない。

古くは、マラソンの有森裕子さんが、

アトランタ・オリンピックで銅メダルをとったときの、

「…自分で自分をほめたいと思います」も、印象深いことばです。

或る登山家への質問。

「あなたはなぜ山へ登るのですか?」

「そこに山があるからさ」

ことばって、本気で発すると力が増します。

でですね、

例えばあなたがネットショップの店長だったとします。

洋菓子店を経営していると仮定しましょう。

店では、クッキーの詰め合わせなどを売っている。

おいしそうな写真とかわいいデザインで、

売れそうな気がします。

が、オープンしてみると、いまひとつ売り上げが伸びない。

クッキーの写真の下には、

「超甘くておいしいクッキーの詰め合わせセット」

とコピーが添えてある。

さあ、あなたはきっと悩みますね。

どこを修正しようかと。

こんなとき、

私はまずコピーをいじることをオススメ致します。

例えば、このコピーを、

「焼きたてサクサクの手づくりクッキーがぎっしり!」

に書き換えます。

さてこれで、売り上げは上がると思います。

きっと…ですが(汗)

コピーはいきものです。

活きもの!!

本気でいきるものには、魂が宿ります。

よって、コピーは添え物ではありません。

本気で考えたコピーにはパワーが宿ります。

これから、なにかの機会で広告に携わる方は、

ぜひ、コピーをつくる空白の時間をつくってください。

きっと不思議な世界に迷い込むことになりますがね!

青春仕事事情

私の仕事の原点は、肉体労働だった。

まず、金になること。金を手に入れ、

クルマを買うこと。

若い頃、働く理由と意欲の原動力は

それしかなかった。

それまでも、サッシ工場、ライター工場、

大型長距離便トラックの助手、

配送、果ては自らトラックドライバーとなり、

関東一円にコーヒー豆を運んでいた。

これらの仕事は、すべて金額で決めていた。

後、セールスドライバーもやったが、

これはこれで営業職も兼ねていたので、

割とアタマも使った。

当時、何ひとつ取り柄のない私にとって、

肉体労働は唯一稼げる仕事だった。

とりわけ、沖仲仕の仕事は

いまでも印象深い。

朝一番に横浜の港近くのドヤ街に行き、

立ちんぼと呼ばれる男たちとの交渉。

何の仕事で日当幾らが決まる。

とにかく最高の値の仕事を獲得する。

で、話が決まると、マイクロバスに乗せられ、

広い港のどこかよく分からない場所で降ろされる。

溜まっている男たちも、まあその日暮らしばかりで、

目だけが異様に鋭かった。

艀のような船に乗せられ、大きな貨物船の横へ付けられる。

貨物船の大きなクレーンから、続々と魚粉の麻袋が下ろされ、

下にいる私たちが、その麻袋をひたすら船に積み上げる。

一袋20㌔はあっただろうか。

麻は手で持たず、鎌をかけてひたすら横へ放り投げる。

それを他の奴が、船に隅から積み上げる。

たまに、高いクレーンの網に乗せ損ねた麻袋が、

船にドスンと落ちる。

「危ないぞ!」と聞こえた瞬間に落ちるので、

だいたい間に合わない。

が、この仕事の間、事故はなかった。

麻袋が落ちた真横にいる奴がにやにやしている。

それがどういう笑いなのか、よく分からない。

8月にこの仕事に就いたので、一日炎天下にさらされた。

躰が悲鳴を上げる。

腰が痛くてたまらない。

船の端で、

何が原因か分からない殴り合いの喧嘩が始まった。

よくそんな気力があるなと見ていると、

現場監督がヘルメットで二人を殴り倒し、

なにもなかったように、作業が続く。

昼飯に陸へ上がると、躰がゆらゆら揺れている。

船酔いのような気分の悪さが続く。

監督からメシが手渡される。

白飯と二切れのたくあんと真っ赤な梅干しが、

ビニール袋に詰め込まれている。

全く食欲が出ず、

コンテナの横のわずかな日陰に横になる。

目のどろんとした痩せた男がこっちを見て笑っている。

逃げようかと考えていた矢先だったので、

見透かされた気がした。

いつの間にか寝てしまい、

でかいボサボサ頭の男に尻を蹴られて起きる。

午後の作業はピッチが上がる。

この魚粉は、後にフィリピンの船に載せられ、

相即、港を出なくてはならないらしい。

「急げ!」と檄が飛ぶ。

太陽に照らされた背中が赤く腫れ、

悲鳴を上げる。

水筒の水が切れてしまった。

体中が魚の粉まみれで臭い。

意識がもうろうとする。

もう、誰も口を利こうとしない。

やがて、

上に上がったクレーンを見上げると、

船員が終わりの合図を送ってきた。

丘に上がり、全員が日陰に臥せ、

しばらくの間、

誰も起き上がろうとはしなかった。

躰が揺れている。

帰りのマイクロバスはしんとして、

やはり誰も口を利かなかった。

クルマを降りると、

この連中の後へ続く。

そして露天でビールを煽ると、

ようやく、みな饒舌になった。

結局その後、妖しい店を数軒はしごし、

東神奈川の駅に着く頃、

財布の金は、ほぼ使い果たしてしまった。

こんなことを数日続けるうち、

いろいろな事を考えさせられた。

自分になにができるのか、とか、

なにか新しい事を始めなくては、とか、

漠然とした不安がよぎっては消えた。

クルマより大事なこと…

初めて自分の立っている場所を知ったのも、

この頃だった。

マックの立ち位置を考察する

マック(マクドナルド)の売り上げが落ちているらしい。

ここ、緊急避難として寄ることはあるが、

しょっちゅう喰いたいとは思わないですね。

だってあのバンズってジャンクの味がするでしょ。

歯ごたえなし。肉の塩味、濃すぎ。

以前、コーヒーをタダで配っていて、

それはそれでありがたいとは思ったが、

振り返るに、

マックのプライスほどコロコロ変わるものもない。

これでは不信感も生まれるし。

一方、いわゆる健康志向のモス・バーガーは

堅調に伸びているという。

健康志向といっても所詮はハンバーガーなのだが、

野菜がしっかり入っているので、

なにかこう納得できてしまう訳ね。

バンズもしっかりしているし。

で、マックの不振は上記の事柄に加え、

やはりコンビニの存在も大きいと思う訳。

この場合、コンビニのハンバーガーがどうのこうのではなく、

コンビニの圧倒的な品揃えが、

遠巻きにマックの収益を圧迫しているようにも思える。

コンビニは食品に限って考えても、

ハンバーガーが喰いたくないのなら、おにぎりがある。

肉まんもあんまんもあるよ。

おでんだってあるからね。

品揃え豊富、選択の楽しみもある。

よって、コンビニに飛び込めばなにかある、という心理。

ここはコンビニの強みと思う。

では、モスだって売り上げが落ちるでしょと

突っ込みが入りそうですが、

モスはモスの商品特異性があるので、

コンビニとは真っ向ぶつからない。

その点、

マックはコンビニと諸にバッティングしていますね。

まさに市場の力学。

こうした現象を傍観している分には面白いが、

彼らの立場に立つと、相当過酷でもある訳です。

では、マックは再び浮上するか? だが、

このデフレの下、堅調に売れているものもある。

100円マックとか100円コーヒーがそれ。

が、如何せん利益が薄い、利幅が出ない。

で、高級路線を幾度か打ち出し、テキサスバーガーとか

ジューシーチキンフィレオとかやった訳ですが、

店ってある固定したイメージがあって、

それをなかなか超えられない。

そこをなんとかしなくてはならないのですが…

で、仮に私がマックの統括責任者だったら(あり得ない)、

まずドリンクをいじると思う。

とりあえず健康ってところに特化し、野菜ですね!

野菜の種類、味、飲み心地、ブレンド等を徹底的に研究して、

オリジナルジュースを展開すると思います。

だって肉喰ったら野菜、

バランスの時代ですよ!

だから、メニューをいじるのなら、野菜がキーワード。

ドリンクの方がいじりやすいし、特長も出せるしね。

思えば、私の学生時代のごちそうはマックだった。

カレーじゃなく、天ぷら大盛りうどんじゃなく、

マクドナルドだったのだ!

特にチーズバーガーの後に喰うフィレオフィッシュは、

なんだかよく分からないが、かなり力んでいた記憶があるので、

きっとうまかったんだろうな…

という訳で、ここは是非ともマックに頑張って頂きたい!

思い込みのみでこの項を書いてみましたが、

原田さん(日本マクドナルド社長)、どうですかね?

初心者が押さえておくべき コピーライティングのツボ

コピーライティングのノウハウといっても、

そう簡単にはまとめられませんが、

この辺りを押さえておけばなんとかなるというポイントを

幾つか書いておこうと思います。

さて、コピーライティングと言っても

要は文章なので、前提として分かり易く簡潔であること。

ここは共通です。ここは外せません。

コピーが他の文と違うのは、ポイントの押さえ方でしょうか。

が、ここが実は難しい。

作文の経験は誰でもあるとは思います。

そこをもう少し掘り下げて、或るもの・ことについて

売ることを前提に書く内容を考える。

簡単にいうと、これがコピーライティングです。

では、ライティング作業の前に、

セールスするもの・ことの情報を、まずメモにまとめてみる。

これはバラバラのメモ帳でも良いので、やってみてください。

で、散らばったメモのなかから、例えば一言でいうと…

という具合に売るもの・ことの情報を基に、

自分なりにその要所要所のピックアップ作業をしてみてください。

このとき、ここは外せないぞというメモにチェックを

入れておきましょう。

上記作業の前提として、セールスするもの・ことの

特長・優位性などは事前に勉強しておく。

そしてベネフィットをアタマに叩き込んでおく。

ああそう、ベネフィットですね?

これは、簡単にいうと、セールスするもの・ことの市場での優位性から

受ける利益とでもいいましょうか。

ここを間違うと、書くことすべてにズレが生じるので、

よくよく検討してください。

例えば、掃除機の場合だったら、業界一の吸引力が売りだとします。

これが特長であり優位性。

で、この掃除機を使うと吸引力が強いので

掃除の時間が短縮できるとか、部屋がより清潔になるので爽快ですとか、

そうしたポイントがベネフィットとなります。

さて優位性のある箇所からピックアップしたメモの重要性を更に絞り、

ベネフィットも付加して眺めていると、

なんとなく語りたい話の流れが見えてこないでしょうか?

それらの断片を考えながら、モザイクを組み合わせるように、

ピースを埋めるように、ひとつのストーリーをつくってみてください。

それができあがると、そうですね

まだ文が饒舌過ぎませんか?

そしたら、それを更に削る。

この際、単語や副詞に気をつけ、更にリアルな表現がないか、

置き換える言葉はないか。

ここは、よーく考えてください。

で、活きの良い言葉と流れができあがりましたら、

ついでに希少性についても考えてみてください。

例えば、そのセールスするもの・ことは数は幾つか?

売り切れる可能性は?

限定○○個だったり限定○○戸だったりしますよね。

ここは、必ず入れましょう。記述しましょう!

もの・ことの希少性は、割と人を惹きつけます。

また、扱うものが鮮魚だったら、日数・時間の特異性もあります。

採れたてとか、産みたてとか、

そういったものも入れたいものです。

この利点を売りに、タイムセールなども考えられます。

以上、このように組み立ててゆくと、なんとなくそれっぽくなります。

そして、それを更に加工するのですが、

最初に話したように、文は簡単・端的にまとめてみてください。

特長はしっかり打ち出してありますか?

ベネフィットは?

希少性もしっかり捉えられましたか?

そして、全体と部分とに分け、何度も読み返しましょう。

これは、大工さんが仕上げに木材にカンナをかけるとか

ペーパーで馴らす行為に似ていなくもありません。

で、一応コピーは完成!!としましょう。

後は、これを繰り返す。

そして、あれこれと工夫しているうちに、次のアイデアや

切り口、発想などもみえてくると思います。

ネットショップの初心者店長さんや、宣伝部新人社員の方などに、

この方法はオススメです。

ぜひ、試してみてください!

花伝説(その4)

遠く巨大な洞窟のある山の麓で

老人は空を見上げていた

私の準備はできていた

老人が言うには

この巨大な穴から吹き出る風は

地の底から生まれる大地の息だと言う

この風に乗れば山を越え

遠くに見える峰を越えて

その地へたどり着けるという

その地に何があるのか

私にはいまも分からない

しかし

風に乗って空を飛んでいくとき

お前に分かるものがあると

その老人は言った

私は重いリュックを開け

羊の皮で縫った大きな羽のようなものを広げ

それを背にして

ひとつひとつの紐を

体にしっかりと括り付けた

風によろけ

そしてつまずく

しかし

失敗は絶対に許されない

これは私に課せられた使命なのだ

私は意を決し

勢い、風のなかに身を投げた

羽は森の木のツルと葉でつくったが

この強風のなかで

強靭なツルは泣くようにしなり

葉は裂けるようにばたついていた

風の強さに息が止まりそうになる

落ちかけた私の体が吹き上げられ

そして

空めがけて一気に上昇した

雨粒が激しく全身を打つ

羽は風を受け

そして山の頭上を越えた

ほうぼうの景色が見渡せる高さに達した

私を乗せたカイトの上昇は続き

羽はやがて穏やかな風をはらんで

いつしか雨雲の上に出ていた

辺りが急に明るくなり

太陽がギラギラと照りつけた

そして

見えるものは

私が生まれて初めて目にする

美しい景色だった

雲の波間は光り輝き

青い空の下に黄金色が広がる

雲の切れ間からは地上の街を見下ろせる

もし天国というものがあるとするなら

こんなところではないかと

私は思った

やがて

雲の上を流れる気流に乗り

私は東の方角へと流れて行く

陽光がきらめく雲海の上を

私は数日かかって飛び続けた

夜は星が広がり

月は煌々と照り

それはそれで

この世ではないような気がした

ある朝

カイトが誘われるように

下降を始めた

カイトがめざす所

それは私の街から遠く離れた

小さな島だった

海岸に降りた私は

カイトを外し

ずっと辺りを眺める

島は波打ち際からずっと平坦で

草原が広がっていた

そして島の中心に一本

私がめざすと思われる大木が鎮座する

見上げると

枝が無数に絡み合い

その先の葉は勢いよく生い茂り

隙間から不思議な赤い花が

覗いている

「慈しみの花だ!」

あの池の傍らで

老人が私に話した

あの伝説の花を

私はみつけたのだ

老人は言ったのだ

「慈しみの花は

この世にふたつとはない花なのじゃ

わしもいまだその花を見たことがない

おまえはそれを持って帰られよ

これはおまえの仕事である

その花の不思議な力は

誰をも穏やかな心にする力を秘めておる

さあ

後は言わんでも分かるな…」

(完)

花伝説(その3)

皆を先へ行くよう促し

私は敢えて森に臥せて

隠れることにした

いま街に運んでもらっても

まず生きながらえることはない

殺されるだけだ

私は森のなかで

数日息を殺していた

そして這いずれるようになると

生きる術を次々と身につけた

小川を探して水を飲み

生えている草を恐る恐る口に入れ

這っている虫を食い

そうして生き延びた

もう家族に追いつくことも

あきらめた

だが、森で暮らして

季節が巡る頃

私は敵兵に見つかってしまった

そして

ここで数奇なことは起こった

私の森で生きる知恵を買われ

軍隊に入隊することとなったのだ

私のすべてが変わり

狂い始めたのも

その頃からだった

自分の運命を呪うことでしか

生きる意味がなかった

私は敵の軍人としてではなく

狂人として生きていた

懐かしい街に火を放ち

何人もの顔見知りを殺した

私が狂っていることを

軍隊は最初から知っていたのだ

川をさまよい

野を這いずり

そこに隠れている人々をも

私は殺した

そして

私は私の役目が終わると

軍を追い払われた

そして

私は廃墟の片隅で

自分をみつめる日々を送る

そんな孤独の日々が

数年続いた頃だろうか

私にも

やがて安堵が訪れる

それは

最愛の母を花にたとえ

来る日も来る日も

花を植え

育てることだった

花が咲く度に

私は救われるような気がした

それは私が少しづつではあるが

正気を取り戻す日々でもあった

廃墟の街に花が咲き乱れ

彩りが戻ってきた頃

私は新しい種や苗を探しに

再び森へ出かけるようになった

何日目かの朝だったろうか

それは黄色く淡く咲く野辺の草花を

みつけたときだった

それが幻想だったのか

いま思い出してもよく分からない

花をのぞき込むと

白いワンピースを着たとても小さな少女が

花弁につかまり

必死で私になにかを叫んでいる

叫ぶ少女に耳を近づけ

私は何度も息を凝らした

「私のおじいちゃんが

あなたを待っています」

「………」

「約束を忘れましたか?」

その瞬間、私ははっとし

そして、耳を疑った

いままで私は何をしていたのだろう?

私は軍隊に入って

一体何をしていたのだろうと

薄暗い記憶が鮮明に蘇る

私は殺人者だ

私は人殺しだ

私は再び狂乱し

その場へ卒倒した

そして再び気がつくと

私は森のなかの小屋にいた

季節は秋から春に変わっていた

私を助けてくれた森の小人は

或る老人から私を助けるよう

頼まれたと言う

木の切株でできた小人の家

テーブルの下には

その老人がくれたという

金貨が5枚置いてあった

小人は私に木の実だけのスープを

毎日欠かさず飲ませた

そしてそのスープは

私が正気を取り戻すまで

根気よく続けられた

(つづく)

花伝説 (その2)

私は店を閉めざるを得なくなり

山ひとつ向こうにある兵器工場で

働くこととなった

あれから数年戦いは続き

その戦いに

私と家族は疲れ果てていた

そして

街にも火の手が迫った頃だった

私は家族を連れて街を出たが

いく宛もなく途方に暮れていた

飢えをしのぐため

食べ物を探しに森へ入ると

木陰から

白いものをまとった老人があらわれたのだ

ふいに私が身を引くと

「やはり来たか」

と私の名前を呼んだ

老人は、手にパンを持っていた

老人は、このとき

私がここへ来ることは分かっていたと言った

私はその老人に尋ねた

「あなたは…

まさか…予言者ですか?」

「うん、そう言う者もおるな」

「ではこの酷い戦争が

いつまで続くのか

私に教えて頂けませんか?」

「よかろう」

と言って渋い顔になった

「ずっとじゃ、ずっと続くのじゃ」

「それは酷いことです」

「そうじゃ。酷いんじゃよ、人間はな」

「私は争いは嫌いです」

「そうじゃろうが戦争は続くのじゃ、だが

この争いを終わらせる方法はある」

そう言うと、老人は一切れのパンを

私の手に渡した

私は思わず老人の顔をのぞき込む

「その方法とはなんですか?」

「おまえじゃよ」

と笑った

「えっ、この私が…」

私はパンを入れた麻袋を手に

家族の元へ戻った

飢えは回避されたのだ

そして老人との事の顛末を話すと

他に望みのないもない家族は

老人の話を信じた

が、恐ろしい事が起こったのだ

或る日

母が食べるものを探しに

森へ入ったが

帰らぬ人となってしまったのだ

私たちは必死で何日も探し回った

が、見つかったのは

餓死した母の姿だった

戦火はいよいよ迫ってきた

みなは移動を開始していた

私はといえば

母を捜し回ったときのひょんな傷が元で

毒でも入ったのだろうか

ついに

歩けなくなってしまった

(つづく)

タブレットの先にみえるもの

アップルの新しいタブレット端末iPad miniと

AmazonのKindle Fire HDは、どちらが買いか、

割と悩むところである。

現在、私が使っているのはiPad。

そもそもiPhoneでなくiPadにしたのは、やはり年のせい。

目がついてゆかない。

iPhoneは、とにかく私には小さすぎた。

で、タブレットという選択。

中高年に、iPadは優しい。

ディスプレイが大きい上に、タッチするだけで拡大縮小が自在。

ある意味、ノートパソコンより便利なこともある。

Android系のものより感覚的に覚えられるので、

やはりアップルは良いなと。

しかし、iPadを常に持ち歩いている私にとって、

如何せんまだこのiPadは重いと思っていた。

だって、ずっしりくるもんね。

で、先の新製品のふたつが、

私の次期買い換え候補となった。

幾つかチェックしてみたが、現在値では、

意外にもKindleがやや優勢。

決め手は、やはり価格となる。

KindleとiPad miniとの価格差は1万円以上。

ブックリーダーのKindle Paperwhiteに至っては、

8,480円という値付けがなされているから、

その安さに驚く。

こうして比較していみると、

AmazonがリリースしたKindleシリーズは、

とにかく安価。

聞く所によると、AmazonはこのKindleシリーズを、

ほぼ儲けなしの値付けをしている、とのこと。

ちょっと不思議でしょ?

儲け抜き、というところが。

では、一体Amazonは何を考えているのかだが、

Amazonだけでなく、今後こうしたデバイス群は間違いなく広がるので、

価格競争はさらに激しくなると思う。

その先手を打ちたいのがAmazonなのだ。

Amazonの狙いは、或る意味、革命的なものを狙っている。

その気配は常々語られていたことだが、Amazonは満を持して

Kindleストアをオープンした。

もちろん狙いは電子書籍。

その裾野を広げるためのKindleなのである。

Kindleが何故そこまで安価なのかが理解できるだろう。

要はインフラの拡大に躍起になっているということ。

後はKindleストアでじっくり電子書籍を売り、

収益に加速をつけたいという思惑がみえる。

繰り返すが、

設備投資を後に回収すると考えるAmazonは、

この際、儲けは後にまわして、

デバイスを一気に拡散させたいと考えている。

これが大きな目的のひとつ。

で、他何が革命的なのかといえば、

Amazonのこうした動きは、

日本の出版業界を一変させるパワーをも秘めて

ということである。

いうまでもなく、日本の出版業界は、

さまざまな規制や仕組みで固められている。

ここは、関係者以外誰も口を出せない鉄壁の流通組織なので、

この流れを変えられるものは、

いまだいないに等しい。

が、Amazonはこの構造をも変革させようとしている。

その影響は制作現場にもあらわれるだろうし、

当然、書籍のコストや流れも変える。

勿論、作者の顔ぶれや印税などの配分も変わるし、

そもそも取り次ぎや出版社の状況や立場も大きく変化する。

要は、本を取り巻くすべての状況が変わると言っても過言ではない。

要は、Amazonがその先人を切るという、

ある意味、革命なのではないだろうか。

その先兵が、電子書籍リーダーなのであり、

KindleでありKindleストアなのだ。

たかがタブレットだが、

その背景を考えると、

されどタブレット…なのだ。

花伝説

No.1

峠でひと休みしていると

一匹の子ギツネが

草むらからノロノロと出てきて言うには

この森を抜けた先に

あなたの探している老人が待っている、とのこと

腰をおろして食べかけのパンをかじる私は

やはりこの道に間違いがなかったと安堵した

赤い鳥が二羽、洋松の枝で鳴いている

キキキキッッっと、鳴き声が山を越えてゆく

森を抜けると

遙か峰の重なりが見える

中腹まで下ると池が見えた

傍らに、人影があった

木の幹に腰をおろしている

あのときの老人だ

背を向け、池を眺めている

私が近づくと

すでに誰だか分かっていたかのように

話し始めた

「やはり来たか」

老人は立ち上がると

こちらを向いて微笑み

白い衣をたぐり寄せると

杖を空にかざした

「しばらくぶりです」

私が言うと

「うん」と

分かっている風に

老人は背筋をピンと張り

歩き始める

薄暗い森をふたつ通り過ぎる

やがて視界がひらけ

次第に急斜面に広がる丘が見える

その丘から更に上を見上げると

反ったように天に伸びる

断崖のようなものがそそり立っていた

目を凝らすと崖の遙か遠い中程に

大きな穴のようなものが空いている

遠くに見えるその穴からは

絶えずヒューヒューというごう音が

ここまで届く

不気味としか言いようがない

その辺りの空気は

遠目に白じれて

突風が吹き出ているのが分かった

老人は再び杖をかざして

「あそこがそうじゃ」

と私に振り返る

「はい」

そう言い、私は背負っている大きいリュックに触れ

再度中身を確認した

崖の洞穴までは粗く削った階段のようなものが刻まれている

私の決意に変わりはない

「では」

「うん、気をつけるのじゃぞ」

私は老人に会釈をして階段を上り始める

「決して引き返してはならん」

「はい」

雲が低く垂れ込めてきた

上に登るに従い高い峰のつづらが見えてくる

それは緊張からくるものなのか

足はガクガクと震える

そして次第に息が上がってきた

私が背負っている荷物は20㌔はあろうか

そして不気味な音だけが次第に近づく

雨がポツポツと降り出してきた頃

ようやくその巨大な穴の真下へと辿り着く

洞窟の入り口は思ったより広く

飛行船位は飛べそうな大きさだった

中を覗くと暗闇が続き

どこまでも底なしのように思えた

ゴーゴーと吹き上げる風は

私を拒むように凄みを増し

それは地の底から吠えるような

人々の叫びのようにも聞こえた

私はふと

ここまでの道程を振り返ってみた

思い起こせば、私は以前

ふもとの街で

何の変哲もない花屋をやっていたのだ

この頃までは平和なときだった

しかし、あの戦争が始まったのだ

(つづく)

モーレツなコマーシャル

Oh! モーレツ

その昔、小川ローザという素敵なモデルさんがいて

クルマが通り過ぎるとスカートがまくれ上がった。

軽快な音楽に乗って、Oh! モーレツ

となる。

このCMは60年代後半に大ヒットして、

それは幼少(?)の頃の私の記憶にも残っている。

商品は、ハイオクガソリン。

丸善石油のCMで、確か「ダッシュ」というハイオクを入れると、

クルマが格段に速くなる、というもの。

それがホントなのか否か、真偽の程は不明だが、

当時はそんな広告が多かったたように思う。

広告表現も途上だったが、このTVCMはインパクトがあった。

当時の日本は高度成長の真っ最中で、景気も年々良くなるばかり。

文字通り、どこのお父さん方の誰もが、猛烈に働いていた。

そこには明日への夢があり、よりよい未来が約束されていたように思う。

きっと現在の中国の景気に似ているのかも知れない。

当時のサラリーマンは、憧れの職業。

みんな自信に満ちていて、数多くの猛者サラリーマンが、

世界に繰り出していた。

そして、日本で売れそうなものを世界の果てまで探しに行って仕入れ、

また、日本の製品を地球の隅々にまで売りに行ったりしていた。

こうして後、この国は世界から、

「ジャパン・アズ・ナンバーワン」といわれるまでに成長したのだ。

まさに日本の経済事態がモーレツに急伸していた時代だ。

「モーレツ」のコマーシャルは的を射ていた。

時代背景をも、的確に表現していたと言える。

私と同世代のサザンの桑田さんも、

このコマーシャルの印象が強かったらしく、

小川ローザの白いミニのワンピースとヘルメット姿がアタマから消えないとみえ、

茅ヶ崎の実在したホテルの思い出を歌った「ホテルパシフィック」で

当時の彼女と同じ格好の女性を登場させている。

これぞ、印象に残るモーレツなコマーシャル。

昔のテレビコマーシャルが如何に影響力があったかという、

典型的な例だ。

※この記事は、オールアバウトプロファイルコラム及び弊社ビジネスブログを転載したものです。