娘にタイ料理の店に連れてってもらう。
パクチーは大丈夫?と聞くので分からないとこたえる。
ニラならOKと言おうとしたけど、つまらないので
黙っていた。
テレビでパクチーを無理矢理だろうなぁ、
渋い顔して食ってる芸人を観て、
パクチーってまずいだろうと、先入観。
タイ料理初体験は、相模川の夜景をながめながらの、
ちょっと洒落た店。
パクチーのサラダ、パクチーをまぶしたチーズ揚げ、
フォー、ガパオライス、生春巻きをオーダー。
ドリンクはココナッツジュースとライチジュース。
娘はなんでかしょっちゅう池袋とか恵比寿で
タイメシを食っているらしい。
「そんなにうまいのか?」
「ん、私に合っているみたい」
「何が一番イケる?」
「ガパオライスかな」
ガパオライスという料理、初耳。
名前からしてタイらしいなぁと勝手に想像するも、
全くビジュアルが浮かんでこない。
で、メニューの写真を凝視する。
「あのさ、ハワイのなんてったっけ、
ほらほら、○○ライスってあるけど、
あんな感じ?」
「お父さんのその○○ライスって、
ロコモコのこと」
「そっ、モコモコ」
「ロコモコ!」
「ロコモコね」
「うーん、一皿に盛ってあって目玉焼きがのっているところが
ちょっと似ているわね。後は全然違う。味もね」
「どうも」
「ところで、フォーってベトナム料理だよな、
食ったことある」
「まあ、東南アジアで一括りしているんじゃないの?」
「ライチは結構どこにでもあるよな」
「つまんないな、お父さん!」
「………」
静かで広い店内には数組のお客さん。
みな常連さんらしく、迷いなく食いまくっている。
夜景が望める窓際のカウンター席では、
若い女性の二人組が、得体の知れないドリンクを飲んでいる。
気になっていたテレビ画面には、
タイのアイドルらしき若いボーカルの男の子が、
なんだか体をクネクネさせて歌っているのだが、
どうも愛を囁いているらしいのである。
テレビまわりをよく見ると、パソコンが接続してある。
YouTubeから流しているようだ。
その横の神棚のような棚に
キラキラしたものがいっぱい飾ってある。
その中央にどうも派手目のお釈迦様とおぼしき方が、
デンと置かれている。
うーん、なかなか異国だなぁ。
しばらくキョロキョロするのも飽きた頃、
どっと料理が運ばれてきた。
めちゃくちゃに腹が減っていたので、
まずめざすガパオを食らった。
うまい!
続いてココナッツジュースで流し込み、
パクチーを口に詰め込むと、
やっと落ち着いてきた。
「お父さん、辛くない?」
「ちょっと辛い」
「パクチー食べてるね」
「うーん、食えるね」
娘も割と大食漢なので、こうなると、
そこらの一杯飯屋と変わりなく、
ひたすら食い続けることとなる。
「うっ、急いで食い過ぎた」
「私も…」
店を出て、重い体で河川敷を歩く。
「さあて、次は何を食いに行く?」
「回らない寿司屋か、骨付きのステーキ。
めちゃくちゃおいしいお店!」
「………」
もう夏だというのに、
川面を渡ってくる風が、
やけに胸元を冷やす訳である。