回転寿司の怪

作家の伊集院静さんは、男の流儀にうるさい。

彼の通っている寿司屋は銀座にあるそうだ。

かといって、彼の通う店だから派手ではない、と思う。

おとなの男の流儀から推測するに、

彼は、路地裏に佇むこぢんまりとした店でほどほどの酒をたしなみ、

寡黙な板さんが出すネタをつまみ、二言三言ことばを交わし、

少し酔いがまわる頃に店を出る、とまあこうなる。

カッコイイ!

で、私の場合はというと、資金力もなく地域も田舎なので、

というか、男の流儀を貫くほどのものを持ちあわせていないので、

寿司を食うにしても、回転する店へと行くこととなる。

ここで、あえて男の流儀を通すなら、

まずキョロキョロしないこと。

静かにお茶を飲んで、余裕で皿に醤油を注ぐ。

減塩醤油ね。

で、ヤンママやガキたちに混じって戦いに挑めば良いのだ。

最近オープンした街道沿いの寿司店はいつも大盛況で、

30分や一時間待ちなんぞは当たり前。

いつぞや、私は皆の不意を突くような時間帯にここを訪れ、

待ち時間ゼロで席に通された。

ヤッタネ!

他の回転寿司店では前方に板さんらしき人を確認するも、

この人気店のカウンター前は無人。

かわりに液晶ディスプレイと派手なメニューのチラシ類が私を迎えてくれる。

おっと、目がチカチカする。

参った。

日頃、パソコンのディスプレイとにらめっこしている身なので、

コイツは嫌だなと思った。

なんといっても目が疲れる。

飯どきくらいリラックスしたい。

が、目の前を通り過ぎる皿を頂こうかと思ったが、

乗っているネタが幾分水気を失い、

皆の前を通り過ぎてゆく間に雑多な付着物もあるのだろうと推測。

仕方がないので、再びディスプレイに目をやる。

タッチパネルは幾分感度が悪い。

ある程度の力でタッチしないと反応しない。

ここは、iPadの技術を応用してもらいたい。

で、何が食いたいかをこのタッチパネルで追いかけることとなるが、

例えばサーモンひとつとっても、その種類が多いのにまず驚く。

炙ってあるやつとか、バルサミコ酢がけとか、

タルタルソース和えとか、

パネルを見ているうちになんだかイライラしてきて、

何でもいいから食わせろよ、となる。

ここで、カリフォルニアロールという食い物も食したが、

いまひとつ好きになれない。

そんな寿司はしらないねぇと、

あくまで江戸前にこだわるような啖呵のひとつも切りたいが、

伊集院さんのような甲斐性のない私は、

とりあえず炙りサーモンを注文する。

で、思ったが、

この寿司屋だけでなく世間ではどこもタッチパネルが普及している。

こうした操作にお年寄りがどのくらい対応できているのかが気になる。

とにかくムズカシイ世の中になってきたことだけは確かだ。

メニューもよくよくみるに、

ここは寿司だけではないことに気づく。

軽い量のたぬき蕎麦やうどんが食える。

フーン。

さらにチーズケーキとかモンブランもある。

アイスも当然のように置いてある。

他、焼き肉の類いもある。

おっと、ラーメンもあるぞ。

あれっ、コーヒーも飲めるな。

それもレギュラーコーヒー。

ええーっ、なんでもあるじゃん。

と、これには驚きました。

こうなると、これは単なる寿司屋ではなく、寿司を軸とした、

総合お好み食堂の様相。

フードコートともダブってくる。

私が幼年時によく母に連れて行ってもらった、

横浜高島屋の上の階のお好み食堂を思い出しましたね。

あそこは確かになんでも揃っていました。

でですね、

この寿司屋にいると次第に首が凝ってくることが分かった。

目がしょぼしょぼする。

そして落ち着かない。

ウーン。

それは、ディスプレイ画面とレーンを流れる寿司と

チラシなどのメニューの情報が、

いっぺんに大量に飛び込んでくることに起因するようだ。

相変わらず、まわりは皆凄い勢いで食っています。

歓談しているグループや家族連れも多いのですが、

皆一様に目は笑っていない。

常に獲物を捕らえる動物のように、

液晶パネルと目の前を流れる寿司は必ず見逃さない。

話半分というところ。

これはコワイ。

で、なんでこんなに繁盛するのかだが、

結局値段だろうとも思う。

お会計で驚いたが、とにかく安い。

他の回転寿司と較べても、明らかに安い。

あれだけ食ったんだからと思うが、この値段はもう寿司の値段ではない。

いうなればタンメンの値段。

道理で混む訳。

他の繁盛する要因を除いても、それだけで納得できる。

でですね、後日ふと気がついたのが、

あれだけみんなで食いまくって海は大丈夫か?

ということ。

少し社会派ぶった疑問ですが、

水産資源も有限だし、いまかなり減少傾向だと言うし…

で、生けすで育てている?

いや乱獲か。

日本人は海洋民族だしタコも食うしなぁ。

だから、海のいきものにとって日本人は天敵だ。

さらに、お隣の中国でも川魚から海の魚へと、食が移りつつある。

こうなると、日本の寿司屋が危ないのだ。

この店もそのうち立ちゆかなくなるな、などと

勝手な推測をたててしまうのでありました。

でさらによくよく思い返し、

あの環境下であの食い方はなんだろうと…

冷静に考えた訳です。

で、ブロイラーチキンの餌を食う様子を思い出しました。

たかが一寿司店の話なのですが、

これはもはや男の流儀などではなく、

現代日本人の流儀とでもいおうか、

そこから考えるべき深いテーマが潜んでいる、などと

勝手に小難しくこねくり回す私なのでありました。

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