サードマン現象

フリーランスのコピーライターをやっていた頃、

仕事を大量に安請け合いして、

数日間寝なかったことがある。

このとき、私は不思議な体験をした。

徹夜も二日目に入ると、ハイテンションになり、

もう、マシンのように原稿がすすむ。

やればできるなぁ、と自らを感心した。

全然疲れないので、ちょっと変だなとは思った。

明日の昼頃には仕上がるなと思った途端、

原稿がバタッと書けなくなった。

一度つまずいたきり、アタマが真っ白になり、

必死に文を考えるのだが、

乾いた雑巾からはもう水は一滴も出ない…

そんな状態になってしまった。

と、モーレツに身体がだるくなり、

デスクに何度も突っ伏した。

まだワープロの時代で、カーソルが文字の最後の箇所で点滅したまま、

止まっている。

ふっと気がつくと、スズメの鳴く声が聞こえた。

数十分だか数時間だかよく覚えていないのだが、

寝ていたようにも思うし、気を失っていたようにも思う。

まずい!

ハッとして慌ててモニターに向かうとアレ?

文章が進んでいるではないか。

例のつまづいていた箇所だ。

一瞬あれっと思ったが、

とにかく焦っていたのでそのまま書き進める。

と、その後もスラスラと書ける。

そして一端朝食を摂り、

午前中には総て書き上がったのだ。

内容は、ある石油会社のガソリンスタンドの従業員向マニュアルで、

印刷期日が迫っていた。

昼の0時ジャストに、A代理店のB氏より「できた?」との第一声。

向こうも必死なのが分かる。

即ファックスを流して校正してもらい、

その日の夕方までに総ての修正を終えた。

で、ビールを飲みながら振り返るに、

前夜のアレは一体何だったんだろうと、

思いを巡らすのだが、

やはりさっぱり分からない。

ただ、意識がなかった時間、

私は光りのようなものに包まれていた感覚を覚えていた。

それはとてもハッピーであり、安らかであった。

後々だが、これがサードマン現象の一種ではないかと、

考えるようになった。

(自己都合により、つづく)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.