速いクルマに乗ろうと思う。

だいぶ年を喰ったなぁというのが、

この頃の実感。

それは、ぼんやりとだが、

身近に死というものを意識するようになったからなのかも知れない。

しかしだ、

また速いクルマに乗ろうかと、

最近、再び思い始めている訳。

速いクルマといったって、

矢のような早さを求めているのではない。

スポーツカーのようなあの流線型に乗りたいとも思わないし。

カタチは、やはりセダンがいい。

求めているのは、最高速度や高速巡航速度ではない。

いわば加速感。

胸の透くような伸びで、すっと心が軽くなるような…

最近突然そう思い始めた。

ジジィが大型車とかスポーツカーにふんぞり返ってゆったり走る、

思えばこんなのは、かなりつまらない。

ステレオタイプのドライビングスタイルである。

クルマ選びにしても、

速そうで速いクルマっていうのは、カッコ悪い。

速そうで遅いクルマは、更にカッコ悪い。

遅そうで遅いクルマは、そのままで良いが…

普通のナリをしたクルマが突然他を圧倒して、

瞬く間に遠くに消え去ってゆく。

私はそんなクルマがカッコイイと思っている。

かつての栄光もなく、

いまじゃその名も忘れられたクルマの中に、

そんな私のめざす名車が眠っている。

去年、修復不能で泣く泣く手放したクルマが、

そのような1台だったように思う。

VW社のBORA。

このクルマはほとんどの人が知らないか、

または耳にしてもすぐに忘れられてしまうような存在。

車体は小さく、そこそこ軽い。

が、2.3リッター、5気筒のエンジンを搭載し、

足回りは少し柔で不安だったが、

箱根ターンパイクの急な勾配を難なく加速し、

息継ぎすることなく滑らかにグイグイと上る。

パワーウェイトレシオが高く、

5気筒のバラツキ感がまた独特の音を奏でる。

それは全くストレスを感じさせず、

初夏の箱根の爽やかさをより際立たせてくれた。

みてくれは、

トヨタカローラにどことなく似ていたのだから、

ちょっと冴えないし、外観から伺うに全然速そうじやない所もまた、

魅力のひとつだった。

しかし面構えだけは良かった。

また、夜間になると260Km/hまで刻んであるメーターが、

赤く妖しく浮かび上がるから、最初は驚く。

コックピットの些細な演出のみが、

このクルマが実はGTカーであることを、

控えめに誇示していた。

私が考えるに、

名車とは、思わぬ加速で気持ちのズレを修正してくれる

とでも言おうか。

または、相手に瞬時のうちに想いを届けてくれそうな美しさ。

いわば、老いをカバーするように、

若気の勢いを深く宿しているクルマが良いと。

さて、

―こんなクルマをまた手に入れ、

仕事を放っぽり出して、

カミさんと日本一周の旅にでかける―

そんな妄想を最近また抱き始めている。

ムカシのように、

何処へ行くかは気分次第なので、

あらかじめの宿は決めない。

そしてナビは使わない訳だ。

換わりに最新の地図帳を持って行く。

それをいちいち丹念に見たいので、

その時間だけ手間どるが…

そしてLEEのGジャンを後部座席に放り投げておく。

そうだ、ビーチサンダルも積んでおこう!

うん、これじゃ若い頃となにひとつ変わらないじゃないか?

いや、

ホントは、なにひとつ変わりたくないんだと、

最近になって気がついた。

年をとったって、なにひとつ…

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