4月になると、新社会人とおぼしき、
初々しい姿を街で見かけるにつけ、
どうしても思い出してしまうことがあります。
或る会社にやっとこさ、入社できたときのこと。
私の場合は中途入社、転職、
それもムカシの話ですがね。
が、気持ちだけは初々しかったと記憶しています。
西麻布のとある広告会社でした。
で、初出社した朝にマイ机をいただき、
なんでかじっとしている訳です。
やることがあるようなないような、
私も廻りもちょっとした緊張感がありましたね。
しょうがないので、
社内の先輩方の仕事ぶりとか、
壁に貼ってある制作済みのポスターなんかを眺め、
まあ、ヒマでそろそろうんざりしてきまして、
午前11時を過ぎたあたりから、
なんだかクソ面白くもねぇーと
内なる私が呟く訳です。
コピーライターとかデザイナーとかディレクターとか、
そうだ、この会社では或る業界の月刊誌も出していまして、
編集の人間も混じってウロウロしている。
要するにみんな忙しいんですね。
で、「私」という即戦力?を使えば良いのに、
そういうことを考える余裕さえないような、
つまらない職場のように思えましてね。
とにかく各自が仕事に没頭しているのか知らんが、
対照的に私は超ヒマでして、
ざっとこれから毎日ここで働いている自分というものに
想いを巡らすのですが、
どうも笑顔のオレさまがいなのであります。
昼になって、朝一で紹介されたなんとかという先輩上司が、
笑顔で私に近づいてきて「メシ、行こう!」っていうのですね。
「ハイ!」
とりあえず良い返事。
(腹減った~)
都会の雑踏のざわついた部屋の片隅で、
寡黙な私は、数時間ぶりに声を発したのです。
その瞬間、天から声が降りて参りまして、
「辞めちまえよ」ってささやくんですね。
ホントは天ではなく、
私の直感のような内なる声なのでありますが、
まあ、そんなことはどうでもいい。
先輩と私と数人が連れ立って、
夜は酒を出しているとおぼしきスナックのような店で焼き肉定食を喰いまして、
帰りに用があると言い残し、
みんなと別れてそのまま日比谷線に乗り、
恵比寿で山の手に乗り換え、
目黒で目蒲線(現在は目黒線)に乗って、
外をぼぉーっと眺めておりました。
その頃、妻がつわりで大岡山の病院に入院していまして、
真っ直ぐ行こうかなとも思いましたが、
心配させるのもなんなので、
大井町線で自由が丘へ出まして、
くたびれた映画館で「パンツの穴」という映画を眺めていたのですが、
さすがにこれはまずいなと思い、
さきほどの西麻布の会社へ電話を入れ、
正式に辞めさせていただきますと…
で、そのまま妻の病院へ行きまして、
「パンツの穴」の話をざっと致しまして、
ついでに会社辞めましたと正直に話しまして、
ゲラゲラ笑っていたのを覚えています。
こうした勝手な決断の反動は、
後々の我が家の経済に大きく響くことになるのですが、
思うにいま同じ境遇にあっても、
私はやはり同様の判断をするのだろうと…
「三つ子の魂百まで」
諺ってホント、
真実を語るなぁ。