小学校の同窓会に出席のため、
久しぶりに電車で地元へ帰る。
前回から確か約20年くらいの間隔が空いている。
皆の顔が認識できるか、
いや、そもそもこの私が認識してもらえるのか?
ちょっと心配だなぁ。
横浜郊外の廃れた駅に降りる。
ここはムカシから薄汚い街だけど、
私の青春の想い出がギッシリ詰まっている。
駅前は相変わらずゴチャゴチャしていて、
猥雑な感じはムカシと何ら変わらない。
真新しいビルを囲むように、
軒が壊れそうなほど古びた店がズラッと並ぶ。
友人数人と待ち合わせ、合流。
よう!と軽く挨拶を済ませ、目的の店へと向かう。
この連中とは年に数回は会っているので、
お互いに違和感はない。
目的の焼き鳥屋は、
ムカシ良く出入りしていたトンカツ屋の横にあった。
店構えは大きいが、一見して安っぽい造りと分かる。
この街にふさわしい。
2階へ上がると30人位が一同に介せる広さがある。
その方々のテーブルに見覚えのある顔が並ぶ。
しかし、やはり分からない顔がちらほら。
20年ほど会っていないのもいるし、
それこそ40年くらい会っていない顔もいるので、
ここは致し方ない。
「久しぶり!」
知った顔の肩を叩いて声をかけた。
「おっ、○○やっと顔出したな、元気か」
「まあ」
「これからはずっと出席しろよ。
みんないつも集まっているんだぜ」
「うん、そうらしいな」
しかしまわりを見渡すと、
やはりと言うべきか、(コイツ誰だっけ?)と
どうアタマを捻っても思い出せない顔がある。
ちょっと焦るがしかし、笑顔で通す。
そのうち分かるだろう…
どうやら向こうは私を知っているらしいのだが…
戸惑いのなかで飲み会がダラダラと進行する。
こうしてみんなまずムカシ話に華が咲き、
あれ(学生時代)からどうしていたとか、
年齢柄、定年、そして持病の話なんかになる。
同窓仲間の第一印象は
当然のことながら皆老けたな、である。
私もその一人であることを実感する。
いつの間にか、
遊び人グループが同じテーブルに集まるも、
これではイケナイという話になり、
みな再び別のテーブルへと散らばった。
こういうところがムカシと違うなと思う。
そつなくオトナになっている訳なのだ。
そして、そこかしこで
ムカシ泣かした奴と泣かされた奴が、
対等に酒を酌み交わしている風景が、
私にはなんとも新鮮な光景だった。
今日の出席率は低いらしい。
そこら辺の事情がチラホラと聞こえるも、
どうも親の介護が多いらしい。
そういう年だものな、
妙に納得できるものがある。
私は真向かいに座った吉田と話し込む。
吉田とは仲が良かったという訳ではないが、
まあ幾度か何かで絡んだ覚えはある。
なかなかのイケメンだった吉田も顔に疲れが見え、
頭髪は少なく、白髪である。
彼は去年サラリーマン人生を終え、
いまは週に数日、近所でアルバイトをしていると言う。
吉田情報によると、
毎日が暇という仲間がこの地元では結構いるらしく、
皆パチンコ屋でちょいちょい会っては、
集まっているらしい。
この会自体、かなりの頻度でやっていると聞いたので、
やはり地元組は何の緊張もない。
酒もかなりまわった頃、
ガキ時代に全く目立たなかったN君が、
やおらマイクを握って立ち上がり
「ええ」と赤い顔で話し始めた。
「そろそろ自己紹介でも始めませんかね」
そう促され、
席を立ち、一人ひとりが挨拶をすることとなった。
知らない顔の幾人かが自己紹介をする度、
私が忘れていた記憶が目を覚ます。
「あっ、あいつか!」
なんだか急に嬉しくなる。
自分が話す番になり、
思わず「初めまして」と言いそうになってしまう。
そのくらい記憶の奥に眠っていた人間が、
いま一同に介している。
思うに同窓生って何だろうと考えた。
同じ時代を生きてきた仲間
同じ季節を過ごしてきた仲間
よくよく考えると、
ひょっとしてこれは凄いことなんじゃないか、
と思った。
そして、みんなの口から、
いまはもうこの世にいない同窓生の名前が、
数人挙がった。
あちらこちらで、ため息が聞こえるのが分かる。
ちょっと胸苦しくなる。
しかし、もうそういう年なのだなと、
私もうな垂れた。
しかしいま、
同窓生がこの懐かしい街で一同に介し、
屈託なく酒を酌み交わしている。
同じ時代を生きてきたから
同じ季節を過ごしてきたから
なのか?
みんな相変わらず
頑張って生きているではないか…