印象に残る景色というのはそれ相応にあるが、
気持ちのいい景色というのは、
どうも季節とか気温とか風なんかに影響されるようだ。
気温が30度をゆうに超している道路を、
なぜか独り歩いていて、
その道路は上り坂でゆっくりとしか歩けない。
先がカーブしていてブラインドになっているのだが、
まあその先も同じような景色が広がっているのだろうと、
私は勝手に思っている。
道路の脇には規則正しく、葉のない木が並んでいる。
幹や枝はそこそこ太く、途中で折れているのもある。
アスファルトが、暑さでゆらゆらと揺れている。
風が全く吹いていない。
この情景は架空だが、
私が幾度となく繰り返して夢で見る、
またはふっと想い出すように現れる景色なのだが、
それがホントは実在するものなのかどうかはハッキリしない。
が、この景色が浮かぶ度、
なぜか懐かしく気持ちがいいのだ。
中東の上空を飛んでいるらしいことは、
なんとなく分かっていたが、
機体が突然揺れはじめてものすごい嵐に遭遇した。
どうやら積乱雲に突っ込んだようだ。
稲妻が横に走って、翼あたりに落ちたような気がした。
窓側に座っていた私はその様子を見ていて、
ガタガタと揺れる椅子で目をつむった。
それからどのくらいの時間が過ぎたのかよく分からないが、
機内にふっと静けさが戻ると、
皆気が抜けたのか、知らない隣の人と
急に笑顔で話しだしたりしている。
私が再び窓越しに目をやると、
静けささえ感じることのできる
おだやかな暗い夜の空が広がっていた。
下に目をやると、暗闇のなかにひときわ際立つ、
燃えさかっていると思われる何かが見えた。
静けさに広がる闇とオレンジ色のコントラスト。
これが中東の油田地帯であることは、
機内アナウンスで知った。
まあ、これはほっとした景色とでもいうのか。
長野県の佐久にコスモス街道というのがあるが、
私はそこが有名な道路ということも知らずに走ったことがある。
夏とはいえ、信州の高原は風が吹けばとても気持ちがいい。
遠くの山並みの緑が光って濃淡を放っている。
道の脇に色とりどりのコスモスが群生している。
くるまを進めるとコスモスが風に揺れて、
ちょうどおじぎをしているようにも見えるし、
踊っているようにも思える。
くるまに吹き込む心地よい風。
カーステレオから流れるフォークソング。
意味のない彼女とのおかしな会話。
思えば、気持ちのいい景色などと書いておいて、
書きたかったのは、
忘れ得ぬ時間だったのかも知れない。