ふる里へ帰ろう

 

六つ年上の兄は

心臓を患って

そのまま帰らなかった

 

弔いの日

長い列の頭上を

カラスたちが舞っていた

 

その夜

残って崩れて散らかった

鮨の巻物と濃いみそ汁を

うつむいて食べた

 

それからよっつの秋が巡り

翌年学校を出ると

私の都会暮らしが始まった

 

それから26年が過ぎて

 

或る日

仕事帰りの空に

茜色が広がっているのをみた

 

もうカラスはいなかったけれど

兄のいなくなった母屋の

かたい畳の手触りが蘇る

 

ビルのあちこちに

うっそうとした森が現れる

車で溢れたアスファルトは

ゆるやかな川の流れとなって

 

「時計のねじを

もう一度

巻き戻そう」

 

私はあの日と同じ

詰襟を着た少年となって

地下鉄の降り口を

下っていった

 

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