泣きたくなったら
夜中にひとりで泣く
Y男はそう決めている
誰に知らせるものではない
後は微塵も残さない
そして生まれかわるかのように
何事もなかったかのように
朝飯を食い
背広を着て家を出る
あまり好きではない会社へ
よくよく分からない連中と
挨拶を交わす
お客さんのところで
それなりの大きな売買契約を獲得し
帰りの地下鉄のなかで
Y男は考えるのだった
この広い都会で
オレの自由って
一体どんなもんなんだろう
たとえば
しあわせってどういうものなのか
こうして地下鉄に乗っている間にも
オレは年をとり
時間は過ぎてゆくのだ
この真っ暗な景色でさえ
微妙に変化してゆくではないか
妙な焦りとあきらめのようなものを
Y男は自分の内に捉えた
地下鉄を出ると
けやきの木が並ぶ街に
夕暮れの日差しが降り注いでいる
(とりあえず今日だけでも
笑顔で歩いてみようか)
Y男は陽のさす街並みを
さっそうと歩くことにした
こんがらがった糸を解く間に
過ぎ去ってしまうものが愛おしいからと
歩く
歩く
いまオレ
太陽をまぶしいって
そして
久しぶりに心地よい汗が流れている
徐々に疲れゆく躯の心地
そうして遠くに消えゆく昨日までのこと
まずは
そう感じている
こころをつかむことなのだと