がら空きの思想

がら空きの思想があった

私がその部屋を覗くと

一人の女性が顔を出し

ようこそと招き入れる

あられから月日は過ぎ

私はその思想について考察し

多角的に検証し

ときに深く考え

多少の疑念を抱いたが

がら空きの思想は

その女性により

遂に完成をみたのだ

私はいま

その女性を崇め

きっといつか

なにかしらの遺志を継いで

生きてゆくことだろう

元来その女には

学もなく

夢もなく

人を罵り蔑むことも多く

世の中の総ての事象に

つまらない反応を示し

ただ丈夫な体躯だけで

働くことだけを示し

変えられない過去に嫌悪し

魑魅魍魎に

取り憑かれているのを知るにつけ

私は或る日

このがら空きの思想を

二階のベランダで天日干しにして

パンパン叩き

部屋へ取り込んで

ひとつひとつを点検した

絡み付いた汚い糸を解き

へばり付いた汚れを剥がし

ヘラでほじくり

綺麗な真水で洗い流した

そうして

やがて顔を出したのは

ことばにできない

光輝く

玉のように深い色を湛える

それは紛れもない

愛だったのだ

「がら空きの思想」への2件のフィードバック

  1.   
      
    なんだかすごい詩ですね。
    「がらあきの思想」 とは何なのでしょう。
    そして、それが「完成する」 とは何を意味するのか?
    けっこう深いものがありますね。
    でも、これは一人の女性とずっと暮らしていくことの意味をさぐるよ
    うな詩なんでしょうね。
    そうすると、その女性とは、奥様?
    でも、すごいな。
    「天日干ししてバンバン叩き、汚い糸を解き、真水で洗い流す」 なん
    て。
    それは 「ともに生活する」 ことの比喩ですかね。
    でも、最後のフレーズは感動的。
    「顔を出したのは、光輝く玉のような、紛れもない愛だった」なんて

    ある意味で、ベタなフレーズですが、それが一連の流れの最後に来る
    と、突如、ズシリとした重みを伴って、胸のど真ん中に突き刺さりま
    す。
    シュールで、クールで、そしてとてつもなく優しくて。
    いい詩ですね。
      
      
      

  2. 町田さん)
    ズバリ、これは僕のおふくろのことをうたった詩です。
    奥さんではありませんでした(笑)
    ウチのおふくろは、詩にあるように、結構めんどくさい人なんですよ。
    言っていること、やっていることをみると、
    まあよく他人様に勘違いされる所も多く、
    親父も僕もいろいろ迷惑を被りました。
    現在90過ぎたおふくろが、この頃演説をぶつこともあり、
    よく聞いていると、物事をよく考え、観察しているのに驚きます。
    筋も通っている。
    MRIで検査するとアルツハイマーなのに、です。
    おふくろは昔で言う横浜の庄屋の娘なのに、それらしい所が一切なく、
    実に貧乏が似合う人で、学もなく、箱根を越えたことも数度しかないという、
    ホントに地味を絵に描いたような人です。
    で、この人を構成しているものはなんだろうと昔からひっかかっていまして、
    観察するに、実はこの人ほど素朴で虚飾なく生きてきた人もめずらしいと
    思い始めました。
    で、この人の思いは、なににつけ、「濃い」んです。
    「濃い」という表現は、強いというか深いというか…ということが
    分かってきまして。
    最近になってですが、この人のに育てられたことを僕は誇りに思おうと、
    そう思って書きました。
    なんだか、つまらないことを書いたような…
    コメント、ありがとうございます。

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