先日、友人と自由が丘で待ち合わせ、
うろうろするうち、
金田という飲み屋へ入る。
久しぶりに、
チェーン店の居酒屋でないところへ入った。
まだ夕方の5時ということで、
店内は人もまばら。
出迎えの女将に笑顔はない。
むしろ怒っているようにもみえるし
キリッとした表情ともいえる。
カウンター席のみでコの字が二つ。
隅っこに座ると、
奥の板場から数人が、
じろっとこちらをみる。
やはり、ぜんぜん笑顔なし。
つまらない笑顔なんて不要
という店なのであった。
ノンアルコールビールをくださいといったら、
女将の目がつり上がったのが分かった。
「ウチにはそういうものはありません」
友人は生ビールを頼んで、
俺の顔をにやにやしてみている。
(コイツ、知っていたのか?)
女将がどうします、いやどうするんだよ、
というつり目をするので、
ビールの小瓶を頼む。
ちょっと参ったなと思った。
なんせここんとこアルコールなんて
全然口にしてないし。
とにかく、酒をやめて15年くらい経つ。
女将と目が合うと、我々の後ろを指さすので、
ウムっと振り返ると、そこに金田酒学校の
立派な一枚板が飾られている。
おおっ、立派な墨文字。
女将が何が言いたいのかは即座に分かった。
酒をたしなむこの店のマナー、
学校の他にも、
ここの掟のようなものが書かれているハズだ。
実際、後で確かめると
そんなもんは書かれてなかったが、
とにかく、酒の学校だったんである。
学校に飲みに入った以上、校則は絶対だしね。
という訳で、15年ぶりのアルコールである。
ついでにタコぽんとか若鶏の焼き鳥、
菜の花のおひたし、しめ鯖、しんじょう揚げといった
酒飲みにはたまらない肴も久~しぶりにいただく。
(これがうまいんだなぁ)
さて、アルコールをやめたのは、
確か15年くらい前だった。
最初は医者の忠告だったように思う。
肝臓値、コレステロール、中性脂肪が
軒並み悪い数値だった。
が、あまり気にもせず、
アルコールを少し減らす程度でごまかしていた。
断酒は意外なことがきっかけとなった。
いつものようにビールを飲んでいたら、
やたら鼻が詰まって息苦しい。
そんな日が続くようになった。
日本酒でもワインでも焼酎でも、
とにかくアルコール類を摂取すると鼻が詰まる。
息苦しい、酒がうまくない。
薬屋にも医者にも行ったが明確な回答が出ない。
いろいろな薬なんかを飲んではみたが、
どれも全く効果がない。
次第に飲む日が減った。
なんだか面白くない日が続いた。
だって息が……ですよ。
そうこうするうち、
習慣づいていた飲酒もやめてしまったのだ。
私はついに、
酒と相性の悪い人間になってしまったのだ。
以来、今日まで飲んでないし、
飲みたいとも思わない、で甘い物が好きな、
とてもつまらないおじさんになってしまったのだ。
思うに、私の場合の飲酒は
犬の条件反射と同じで、
食い物をみるとよだれが出る犬のように、
夕方になるとアルコールを摂取していた訳だ。
その際の条件キーワードは「夕方」であった。
で、話を自由が丘の金田に戻すと、
前述した理由から
15年ぶりにアルコールを摂取することとなったが、
結果はなんというか、
身体中を血液が巡るというか騒ぐというか、
妙に身体が暑くなるという、
身体の懐かしい変化が呼び起こされた。
結果、アルコールってなかなか「うまい!」
なのであった。
気分も絶好調。
そして、鼻が詰まらないことも確認したのだ。
さて、では晴れて飲むぞ、
で、もう一度、自由が丘の金田に行って、
酒通になるぞとも一瞬思ったのだが、
あれから数日経ったいまでも、
アルコール類は一切摂ってはいないし、
あのサケも肴もうまい金田にも、
もう行かないだろうなと思っている自分がいる。
特に我慢も無理もしていないのに
なぜだろうと考えるに、
私には現在、チョコを摂取する習慣があることを思い出した。
疲れた日の夕方に摂取するチョコは、
とにかく格別にうまいのだ。
このの心境をたとえていうと、
むかーし別れたおんなの人と再会したが、
もうその頃のようには戻れない。
そんな感じなのである。
ああ、人はどんどん変わってゆくのだ。
好みも変化するし、
習慣も進化してゆくものなのだ!
しかーし、それにしても
久しぶりのビールはうまかったなぁ。
やはりこの先、
どうなるか分からないんである。