春は、だいたい風が強い日が多い。
その風に紛れて花粉が舞っている。
それも数十種類いや数百の木々や花から
放たれたものだ。
これが目に鼻に辛い。
木の葉とか虫とか、
土、埃、細かいゴミ、
ビニール袋、
果ては人のため息まで舞っているから、
実は、春の風は身体に良くないのだ。
丘の上では、
そういうものが風の中にひしめいている。
が、ほとんどの人は気づいてはいない。
なにしろ、暖かさが人を油断させる。
霞のかかった景色に人は眠気を感じるから、
警戒心も解けてしまう。
色をなして、無数の生が無数の生に呼びかけている。
それは性であり、精でもある。
春は、命のお祭りのようなものなのだ。
しかし、それを謳歌と呼ぶには危なすぎるし、
危機と感じるには、あまりに面白みがない。
ただ、生きているという実感を強く感じることのできる、
この上なく猥雑な季節であることは確かなことである。