桜の頃

満開の桜が、風に散る。

この頃になると

私は、新しい教室と、

初めての職場の頃を思い出す。

転校してきて、私が見知らぬ仲間の前で

紹介される。

そして、緊張したのも束の間、

授業中の居眠りの癖が出るのもこの頃だった。

思い出したかのように、遅刻も始まる。

何処へ行っても怠惰な習性が抜けなかった私も

さすがに社会人になってからは遅刻が減った。

が、居眠りは続いていた。

これはどうしようもない。

病気だなと思った。

が、会社を辞め、独立してからは

遅刻も、仕事中の居眠りもなくなった。

調子がいいというか、現金な人間だ。

人は、自覚が生まれると頑張るものらしい。

お客様との待ち合わせも

約束の場所へは、遅くとも10分前には行く。

仕事中の居眠りは皆無。

我ながら、当たり前のマナーを身につけた。

自らを振り返って思うに、

自身の自覚がないと、人は流されるものらしい。

目的もなく彷徨っていると、やる気など出る訳もない。

その昔、飛行機で隣あわせたインドの青年と

どちらともなく話すことになり

お互い片言の英語でやりとりする羽目になった。

彼は、これからアメリカに渡って働きながら勉強をし、

絶対にアメリカン・ドリームを掴む、と私に話した。

そういう大きな事を考えもしなかった当時の私は、

軽い衝撃を受けた。

いま思い返しても、彼の鋭い目が印象に残る。

先日、花見の帰りに中国人が経営している店で

夕飯を食べた。

この店には、

中国のモンゴル自治区から来ている女性の従業員がいて、

行く度に、愛想を振りまいてくれる。

店のリーダーとして、彼女の他の従業員への指示も的確だ。

決して安くはないメニューだが、味は良い。

いつも繁盛している。

店が暇なときに、彼女と一度話しをしたことがある。

彼女は、家は貧しいらしいのだが、

親にかなりのお金を工面してもらい、

相当の覚悟で来日したそうだ。

そのはつらつとした笑顔からは想像もできないものを

彼女は背負っている。

絶対に失敗は許されないということらしい。

まして、つまんないとか飽きたなどという甘いものなど

あるはずもない。

彼女の目的は、日本のサービスを学ぶことだと言う。

中国に、つい最近までサービスという概念はなかった。

私も、彼女を見るまで、中国の女性の無駄(?)な笑顔は

見たことがなかった。

曰く、キメ細かい日本のサービスは凄いし、これを中国に

持ち帰ればビジネスになる、ということらしい。

決心の違いは、ここ彼処に現れる。

昨日、両脇が満開の桜の道を、クルマで走り抜けてきた。

風に舞う桜の花びらが、日差しのなかで踊る。

春の色模様だ。

春眠暁を覚えず

つい居眠りをしてしまいそうな陽気だが、

思えば、桜の散るこの時期ほど

身の引き締まる季節もない。

私が会社を興したのも、春だった。

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