朝、ベランダから鳥のさえずりがきこえると、
あっ今日は晴れだなとさっさと目が冴える。
(我ながらゲンキン!)
やり残しの書きものとかデスク仕事だとか、
そういう野暮なものは後回しにして、
どこへ出かけようかとウズウズしてしまうのが、
最近の晴れた休日の朝の傾向。
居間からキラキラとした朝の日射しがまぶしい。
ソワソワと朝食を摂る。
とにかく歯を磨いてヘアスタイルを整え、
出かける支度を急ぐ。
水のボトル、シリアルバーなどをザックに入れ、
帽子を被り、トレッキングシューズを履くと、
なんだか晴れ晴れとした気になる。
今日は、最近オープンした自然公園へと出かける。
麓の坂を歩いていると、
途中の小径に切り通しがあって、
そこは意図的に地層がむき出しにしてある。
ある箇所の地層の色が、他と異なる。
説明の看板を読むと、
それは富士山の噴火でできた地層らしい。
こうしたものから歴史を探る仕事って、
結構面白そうだなと思う。
振り返れば、若い頃の就きたい仕事のひとつに
考古学者というのがあったのを今更ながら思い出す。
森を進むと奥地に水田が広がる。
アメンボがスイスイと水面を滑っている。
沢山の蛙がゲコゲコと鳴いている。
これは幼い頃と同じ景色、
同じ風景だ…
あの頃は一年中半ズボン。
いつもナイフを手に何処へでも入っていった。
そういえば竹ヤブに丸一日いて、
親に怒鳴られたことも幾度かあった。
ナイフ使いはその頃に覚えた。
竹と笹をうまく組み合わせて、
刀のようなものをいつも夢中でつくった。
山から下りると手も足も傷だらけで、
オキシドールをかけると、これがとにかく痛い。
傷口から泡がボコボコと噴き出していた。
いま、その消毒薬は使用禁止らしい。
うっそうとした木々の間から、
野鳥があらん限りの力を振り絞るようにさえずる。
どこでそれをきいているのか、
呼応するように鳴き返すから、
森じゅうがカン高く美しく響く、
コーラスのステージと化す。
春だなぁ、森はいま恋の季節だ。
強い日射しが新緑に照り返り、
それが風に乗って揺れるので、
刻々と彩りが変化するその様が美しい。
この視覚効果は、最新のCG技術なんかもかなわないだろうと
確信をもつのだが、いま思うにちょっと自信はない。
「山ガール」という言葉ができるほど、
最近はハイキングブーム。
「ランドネ」という山登りの本が売れているらしい。
アウトドアショップに行っても、
閑散としていたムカシと違い、
いまは老若男女の人でいっぱいだ。
バーベキューにハイキング、
カヌー遊びに焚き火のどれもが、
いまの若い人には新鮮だろうが、
田んぼの蛙を焚き火で焼いて喰い、
石油の一斗缶を紐で繋いでイカダをつくり、
それに乗って川遊びをしていた私には、
これらすべてがノスタルジーの再現だ。
が、すべてがスタイリッシュでカッコ良くなり、
いちいち金がかかるようになったなぁと思う。
そういえば、都会のコンクリート・ジャングルも、
なんだかんだと過ごしているうちに金がかかる。
皇居のまわりや多摩川べりを走っている知人、
横浜の本牧埠頭で釣りを趣味にしている友人に聞くと、
アレコレと金がかかると言う。
面倒なのでその明細を聞いた訳ではないが、
なんだか世知辛い。
「ムカシは良かった」と実感するのは、
やはりそんな時だ。