懐かしの海辺のホテルへ

 

正月から大事件ばかり起こっていて、

情報を追いかけるだけで精一杯。

テレビ、X、YouTubeのほか、

情報は多角的にとっているけれど、

なかなか真実にたどり着かないこともある。

 

或る疑問が生じると徹底的に調べることにしているが、

デマやフェイクが多く、

分かれ道で呆然と立ち尽くしてしまう。

 

これでもひとむかし前に比べればマシである。

新聞とテレビの凋落は何を示しているのか?

まあ、この話はいつかまとめて書きたいと考えている。

 

それにしても、やはり現実は悲惨である。

火事や家屋の倒壊で亡くなられた人が増えるたびに、

悲痛な気持ちになる。

怪我や体調の悪い方も、

この季節と北陸地方であることを鑑みると想像に難くない。

たとえ生き延びたとしても、

こんどは持久戦で戦わねばならない。

 

これは辛い。

 

ボクもかなり老いてきたので、

自分だったらどこまで耐えられるのか、

と考えるも、自信がない。

 

北陸地方には親類縁者もいないが、

さきの震災や豪雨災害のときに友人や知人が巻き込まれ、

その恐ろしさや苦労を幾度となく聞いていたので、

今回の災害の悲惨さも、すぐに想像がついた。

 

 

話は変わるが、

ボクの会社は3.11のときに、経済的に大きな負債を抱えた。

直接被災された方々とは比べものにならないくらい

ケチな話ではあるけれど、

経済的な立て直しに5年はかかった。

 

その舞台のひとつが、今回でかけた海辺に建つホテルである。

忘れがたい場所であり、いまではようやく懐かしいと

思えるようになった。

 

ここのホテルの仕事は、或る人物を通しての持ち込み企画だっ

たので、まあプレゼンで通ったら真剣にやりましょうと、

当初はたいして期待もしていなかった。

よって金銭やその他のことは、

あまり深く考えてはいなかった。

 

が、斯くしてプレゼンは通り、

本格的な準備に入いることとなった。

 

2010年のことである。

 

そんないきさつだから、当初から契約内容がかなり緩かった。

成果報酬型というスタイル、すべて後払いでOKです、

というのんきな内容の契約でスタートした。

 

言い換えれば、こちらにはこの企画にかなりの自信があったの

で、先行投資も苦にならなかった。

 

準備期間に10ヶ月を要した。

他の仕事を入れるキャパもないほど作業は多岐に渡り、

その期間はいわばタダ働き状態。

会社の経理はかなりまずい状態に陥った。

 

オープンは2011年4月1日。

で、あの3.11である。

世の中の空気はガラッと変わった。

恐ろしい暗転である。

 

世間に自粛ムードが広がり、

海だのホテルで優雅に過ごすだの、

そんなムードは完全に消失した。

 

準備期間中は、ホテルのスタッフさんたちには

かなりの迷惑をかけていた。

皆忙しいのにとても協力的で、

幾度も会議やオペレーションにもご参加いただいた。

とりわけ、料理に携わる方々には

新たなレシピも開発していただいたし。

 

震災は、ボクたちの企画を根本から打ち砕いた。

当然のことながら、結果は惨敗である。

 

5月の連休にさしかかる頃、ホテルの責任者から、

「この状況は当分続きますね!? 取りやめましょう」

と通告を受けた。

このときのショックは後々まで響いた。

 

こうしたときにモノをいうのが契約書なのだが、

前述したような内容なので、

こちらとしては何も言うことがない、言えない。

大きな負債だけが残ったという訳だ。

 

ボクは幼い頃からこのホテルが大好きだった。

とても憧れていたところだった。

よって、すべてにおいて、見積もりがあまかった。

 

あれから13年が経ち、ホテルは改装され、

ボクの大好きだったホテルの中庭にあったガラスの教会も

取り壊されてしまった。

 

あるとき撮影のために教会のなかに入ると、

使い込んで古びた長椅子に冬の日差しがさんさんと降り注ぎ、

エンヤの荘厳な歌が響き渡っていた。

 

 

思い出をたぐるように敷地を歩く。

そして新しいカフェに入って、

大きなガラス窓から海を眺めてくつろいだ。

 

椰子の木が風になびいている。

水平線の上を黒い雲が足早に流れてゆく。

光る海の向こうに伊豆大島が見える。

 

やはりボクはここが好きなのだと改めて思った。

ボクの企画は失敗したけれど

いまでは良い経験をしたと、

ようやく晴れ晴れとした気持ちになれた。

 

あれから13年も経ってしまったけれど…

 

 

 

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