バカは死ななきゃ治らないか?

自分のことしか考えない人間
それが私だった

そして俺様といきがる毎日

就職を機に少しは懲りたので
こうした性分も徐々には薄くなったのだが
自己と社会のギャップのなかで
自分は訳の分からない憔悴感に襲われたこともある

結婚という制度に関しても
何の興味もなかった

彼女も年頃だというのに
先をみようとしない
いい加減さと思いやりのなさ

いま
こうゆうオトコが娘とつき合っていたら
即、決闘だ!

いまの私が大嫌いな人間
それがかつての私だった

しかし何故か
流れのようなもののなかで
縁あってか結婚というものもすることとなり
いい加減な新婚生活に突入

その頃
私は仕事に没頭して家庭というものを
意識したこともなく
夢ばかりを追いかけていた

しかし
忘れもしない24年前の今日
私の長男が借金で生まれる(爆!)

看護士さんから
初めて子供を抱かせてもらったとき
赤くて小さくてひたすらギャーギャー泣いている
我が子の重みは
私の人生観を変えた

その日を境に
私は変わった

いや自己中という病が治ったのか?

奥さんに感謝することを知る
新しい命に崇高なものを感じる

そして
彼らを守れるもの
彼らが頼りにしているのは
紛れもなくこの私なんだと
生まれて初めて
自分を差し置いて
ひとのことを想う気持ちになった

人生の前半は「俺」で駆け抜けた
欠点だらけの一人のオトコが考えたこと

自分で稼いで家族を守るということ

そんなことを教えてくれたのが
彼の誕生だった

バカは死ななきゃ治らない
とはよく聞く言葉だが

私はいやいや
そんなことはないと密かに思っている

なにしろ体験者だ

YU、誕生日おめでとう!

人間っていうのも
そうそう捨てたものじゃないぞ!

不思議な一日(その2)

前号のあらすじ)

ある朝、私は森で小さなじいさんと出会った。

つづき

「失礼ですが、おじいさんはここで何をしているのですか?」

髭をさすりながら彼はほい来たと言う顔でこう言った

「わしはこの山の精霊じゃよ。知らんのか?」

「知りません」

「そうか」

じゃあ教えてあげようとおじいさんは私の前にヘタッと座り込んだ

禿げたアタマを手でツルンとやりながら目をつむって

「そうじゃな。その昔、この山のほうぼうにはわしらの一族は住んでおったんじゃよ

それは愉快、平和じゃったよ。ところがある日、人間どもがわしらが

暮らしていた山奥まで来おってな、わしらを見たとたんにそりゃもう

大騒ぎじゃったよ。それからわしらは逃げるようにして、もっと奥の

山へと逃げてちりぢりばらばらになっしもうたわい」

私が耳を傾けてじいさんの顔をじっと見ていると

「わしか?ああわしは逃げんかった。わしはもう500年も生きちょるし

すっかり歳も喰ってしもうた。もうどうでもええと思って一人でこうして

暮らしているという訳じゃ」

私は夢でも見ているのか?と自問しながら耳をぎゅっとつねってみた。

「イタタタタっ」

「どうしたんじゃ?」

「いや、なんでもありません」

「おじいさん、いま精霊っていいましたけれど、そのせいれいって一体なんなんです

か?」

「ほいきた」

じいさんはニコニコしながら、また禿げたアタマをつるっとなでた。

「精霊っちゅぅのはな、簡単にいうとだな森の神様じゃ、なんと

森の神様じゃぞ」

じいさんは曇りがちな空を見上げ、細い目をした。

「神様なんですか?」

「そうじゃよ」

「わしらの仲間はその昔、空から降りてきたんじゃ」

「はぁ」

「空にはそのぅ大神様という偉いお方がおっての。その大神様の命をたずさえ

わしらはこの地に降りてきたという訳じゃよ。分かるかな?」

「あっ、はい」

「で、その大神様の命というのは何なんですか?」

私の質問に、精霊じいさんは大きく首を振った。

「それは言えんよ、大事な秘密じゃからなほほほほっ」

つづく

ナタリー

蒼い湖の底に漂う
水のような瞳に

ゆったりとした広い額が
美しい

そんな華奢な体の何処から
あなたの情熱はうまれてくるのか?

仕事でなく趣味ではなく
あなたは少女の頃から
或る一点をみつめて
生きてきた

コスモスのように奥ゆかしくも
どんな風雨にも耐えた強さと
可憐

恥じらいながらも迫ってくる
その情熱は
いまでもその炎を燃やして
生きている

何を捨てても進むことを恐れない

何が遮っても歩くことを忘れない

恋は時にうつろいやすいのに
あなたにどんなブレが
あるというのか教えて欲しい

いつも変わらず
絶えず笑みを忘れない

あなたはあなたのままで

そのままで

だからこの愛

これからも
いつまでも

※一見キザですが、ラテン語に訳してこの詩を歌ってみてください!
 サイコーです!

不思議な一日

霞がかかった秋の日の朝は

まるで春を思わせる のたりで

ちょっとあったかいのがうれしい

足は山へ奥へと進んでゆく

紅葉した葉に生暖かい風が通りすぎる

不思議な朝だった

霞は薄いカーテンのように

通り過ぎるとひとつひとつ

目の前の世界は変わり

林のなかの窪みにできた池に

小さな人間が泳いでいた

背の高さはざっと見たところ60センチ位だろうか

白い髭を顎にたくわえた禿げた老人だった

カラダに白い布を巻き付け

それが水に濡れて弛んでいるように見えた

彼はじっとこちらを睨むような顔をしていたが

私が「こんにちは」というとほっとしたような顔をして

白い歯をみせた

「どこから来たのかな?」

池の水で顔を何度か洗いながら

こちらへ近づいてきた

「えっと、そのぅ、気持ちの良い朝だったので
ついふらふらと家を出て裏山を歩いていたら
えーっとここに来ていました」

「ほほぅ」

「失礼ですが、おじいさんはここで何をしているのですか?」

髭をさすりながら彼はほい来たと言う顔でこう言った

「わしはこの山の精霊じゃよ。知らんのか?」

つづく

選挙

かあさんがつまらない愚痴ばかり
とうさんに言うものだから

俺が小さいときから
とうさんの話を聞いているうちに
俺は俗物となって
そこから抜け出すこともなく

今日も女房に下らない事を聞かされ
俺はあまり難しく考えないで
息子に同じ小言を言ったものだから

ははぁ
こいつも俗物になって結婚でもするのだろうな
娘も同じく結婚でもして旦那に愚ちるのだろうな

いま気がついた

見渡せば俗物ばかりの世の中なので

女は子供を産み
男は外へ出て
なんだか分からないうちに
ぐったりとして

これはおかしいと気がついた者が
立ち上がり
やがて社会というものを
少しづつ変えていくのかな?

何もない脳みそを動かしたところで
俺は相変わらず
今日もしこたま飲んでいる

俗物と知ったところで
何をしたらよいかさっぱり分からず
昨日は知り合いの和尚を尋ねたのだが
何をどう聞いたらよいのか
やはり分からず
近所の話や寺の本堂前の木の枝っぷりの良さを
話しているうちに日も暮れ
俺は飲み過ぎたお茶で腹をゆさゆささせながら
帰ってその話を女房に話すも
だからどうしたという顔で
夕飯の支度に忙しい

世の中なにも変わらないな

つくづく俗物の俺に気がついた俺は
明日選挙に行くのだが

はて?
何をどう考えて
一体誰を選んだらよいのか
皆目見当がつかない

知っている候補者の名前でも書いておくか?

いや、どうしたものだろうと
つくづく考える

若き者への伝言

まどろみの中から生まれたものは
明快ではないが新鮮だ

朝露を転がせた葉のように
みずみずしくさわやかでもある

振り返れば
青春という季節もそうだったように思う

なにかそのときにはハッキリしないが
やることなすことがとても虚しくもあるが
しかし、なにもかもが新しく そして
生々しかったように思う

想い、悩み、悲しみ、笑い

そのひとつひとつが どれも
激しく
踊るように動いている

青春というのは いや青というより
赤いもののイメージがつきまとう

それがやがては青くなり
白くなって
やがて枯れてゆく

いまという時代はある意味
大きな歴史のうねりなのかも知れないとも思う

こんなとき
みんなチマチマしないで勘違いでもいいから
維新のもののような志をもって
この壊れかけた世界をひっくり返すような
突き抜けた なにか新しい息吹を感じ取って

風のように走り抜けていただきたい

だが結果として
なにも変わらない まして
誰も相手にしてくれなかったとしても
そこにはあなたが生きていたという証が
心のなかに一生宿り続けると思う

たかが百年のいのちを大切にしたい

生きるとは燃焼しつづけること

そして

生きるとは死ぬことなのだから

心の方程式

千年も

一瞬にして過ぎる宇宙の方程式

どれ程のものか、私の一生などと
あれこれ考えているうちに
消えてしまうものだから
華々しく振る舞ってみても
空振りの心は
枯れた葉の一枚さえ落とすこと
ならず

では万年生きる
亀になりたいなどと
思ったところで
如何ほどの悦びが
あなたを戯けてみせるのか?

そのおかしさは蝉に聞いてみれば
分かるだろうが
生々しくいまは
誰もその虚しさに気づくことなく
じゃあ
長寿の象になりたいなどという

人は一瞬の旅人なりて
その場その場を汚すことなく
立ち去ることと
堅く知るべし

暴れる心は
そうして永遠に辿り着くのだが
その人
そうそう他言せず
いそいそと
次の旅へ消えていくものだから
やはり知る人なく
今日も人間は考えあぐねる

まばたきするその瞬間に
千年の時の流れを
移ろいやすい心に
染み込ませたならば
その心に敵うものなく

私もまた
蝉でもかまわないと思うのだ

人は2種類しかいない

ある日、老婆が僕の所へやってきて
3億円で僕の寿命を半分譲ってくれないか?
という。

「いいですよ」
僕は快諾した。老婆もよろこんだ。

僕は3億円の内、1億円で寿命を3倍に伸ばす薬を手に入れ
残りの1億円で借金を返し、更に残った1億円でラーメン屋を
オープンした。

さて、これが商売の基本。
答えは情報を知っているか否かにある。

または先行者利益という。

世の中にはこのような話がゴロゴロしているのだが
そうそう誰にも伝わる話ではない。

しかし、特定の人間たちにはよくある話で
彼らを世間では、偉い人と呼んでいる。

偉い人は「いつも私は皆さんの幸せを考えています」などと
笑顔で近づいてきて、大方の誰もが気がつかぬように
ラクに儲ける術を身につけている。

既得権益というのもその一つだろう。

仕事はたいしてしていない、が基本。

そう
世界は2種類の人間で構成されている。

騙す人間と騙される人間。
むずかしいことではない。

よくよく考えてみれば
国境や肌の色や宗教などというものは
この際、たいしたことではない。

下らないことでいがみ合う暇があったら
僕は先に言ったことに気をつけろ!
と叫びたい。

なぜなら、いがみ合いの素をつくって稼いでいるのが
もう1種類の人間なのだから。

彼らは、神が遣わした人間ではない。
私たちがつくってしまった人間だ。

だからよくよく考えてみれば
国境や肌の色や宗教などというものは
この際、たいしたことではないと
僕は思うのだ。

手紙

前略

久しぶりに手紙を書きます。

お元気ですか?
私はいま、車中です。

この只見線から見る景色は
心が洗われるような素敵な景色の連続です。
川に沿うようにのんびり走るこの列車は
急ぐことなく
山並みを縫うように
ただ、ゆっくりと進んでいます。

空いた車内に
こうして一人で窓際に佇んでいると
どうしてあなたがここにいないんだろうと
ふっとそんなことさえ考えてしまいます。

あれからあなたの事ばかりが胸をよぎります。

さよなら、のひと言をいわれてから
私はただ戸惑うばかりの毎日でした。

あのときああすれば良かった
こう話せば分かってもらえたんじゃないか
そうした後悔ばかりがつのります。

あなたはなかなか自分を出さない人でしたから
最後のことばもあなたなりの誠意だったのでしょうね?

私には分かります。

でも
もうおそいですね。

この旅行も
あなたと一緒に過ごした時間を
洗い流そうと
私なりに決めたものでした。

でもいまとても心が揺れています。

会いたい…

また会って
あなたといつまでも一緒にいたい

どうしたらいいのか
自分のゆく先がふらふらしています。

すすきのうえを飛ぶ赤とんぼが
列車についてくるように
何匹も何匹も
そして川を渡ってゆきます。

もう秋ですね!

寂しくなります。

そして私
この冬は、とても悲しくて。

あなたとの想い出は
この先
消えることはありません。

あなたさえよかったら
またこちらから連絡したいのです。

そして
できれば
もう一度だけ
ふたりでいつもかよった
あの海辺のレストランで
お会いしたいのですが…

また連絡します。

どうぞ、お体を大切にしてくださいね。

あなた一人を愛した女より

草々

P.S

あなたはいまのあなたのままでいてください

いつもかわらないあなたが私は好きです。

旅立ちのうた

天主さまに気に入られてしまったのだろうか?

8月のカッとするような暑い日の朝に
家内のお袋さんは
突然逝ってしまった。

最初の連絡を受けたとき
倒れていたお袋さんを義妹が発見、
慌てて119番通報し
救急車で運ばれて行った。と

家内は狂ったようにそのまま実家へ。

私は急いで家中の火の元と戸締まりをしながら
次の連絡を待つ。

第二報が入ったとき、もう駄目かも知れないという
つぶやきとともに、運ばれた病院を教えられた。

身支度をしつつ、パソコン開けている私がいる。

なにをしたらよいかわからない時間がどのくらい続いただろうか、
意味のないことをしていたと思う。

昼前だった。

私の嫌な予感は的中し、息子のケータイにやはり駄目だったという
知らせが遂に届いた。

急に体中の力が抜け、私はしばらく座り込んで手帳を見ていた。

そしておもむろに裸になりシャワーを浴びた。

なぜシャワーを浴びたのか、いまでもわからない。
急いでいたのかのんびりしていたのかわからない。

押し寄せるものが私を泣かせた。

涙なんて、というものがどんどん溢れ
シャワーの激しい勢いに混じって流れていったのだろう。

親父が逝ってしまったのも、やはり暑い夏の朝だった。

忘れられない夏の日が、

またひとつ。

しかし、いまでも漂う
この香りはどう説明したらいいのだろう?

お袋さんがねむっていた横に置かれた百合の花と線香の香りが
いまも、毎朝香ってくる。

そこにいるんだろう?
無言で語りかけると、香りは確かなものとして
私の鼻に届く。

最近、家内は夜中の2時に目を覚ますという。
気配を感じて、
いるんでしょ、というと置物がカタッと音をたてるという。

湯灌の日、私が見たものは
綺麗に洗った体に白い衣を着
わらじを履いて杖を持ち
首からぶら下げた袋の中に
六文銭の紙を入れた
お袋さんの姿だった。

これからお袋さんは修行の旅に出るという。

どうしても、三途の川を渡らなければいけない。

その船賃が六文銭なのだ。

七七日が近づきつつある。

朝晩はめっきり涼しくなり、秋の気配が侘びしさを増す。

七七日が過ぎてしまったら
あの百合と線香の香りも
どこかへ消えてなくなってしまうのだろうか?

人は強くて、
はかないものだと、つくづく思う。

そして
私は教えられた。

生きてゆく上で大切なものは
さほど欲かくものではなく

たとえば六紋銭さえあればよいことを。