風の詩

飲み干したジンのグラスから

こぼれて溢れる言葉は

踊るように庭を飛び出し

外気に乗って

風になった

風は言う

私はこれから世界を巡るけど

もうあなたの所へは

帰れない、とね

風は旅人だという

二度と帰らない旅人だと

構わない

せめてこの言葉を

誰かに届けてくれ

世界の何処かに、誰かに

風は海を渡り

草原を越え

そして

果てしなく続く砂漠に

降り立つ

遠い遠い国の風は
年をとった

もうあれから
どの位の時間が
経ったのだろう

やがて

誰もいない砂漠で

風は命を閉じた

砂の上に

言葉だけが転がっていた

誰にも届かない言葉

風は旅人

決して戻ることのない

旅人

今夜もまた

言葉はグラスに溢れ

カーテンを伝い

窓際から表へと

消えてゆく

言葉は

風に混じり

そしてまた

世界を巡る

きっと私も

一夜の旅人なのだろう

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