沈殿

土壺の深い底で

這い上がることのできない

おとこがずっと見ていたものは

世間のつまらない縁取りだった

ざわつく欲望と札束で

頬を叩かれた

人前で

またある時は

あの人と向きあっって

それしらい事を話さねばならぬ

振る舞いも嘘だらけだ

と思った

「ならぬ」が追いかけてきて言うには

お前は完璧だろ?とつまらない事を聞く

あなたの眼は節穴ですか?

何も話したくないですね、

と「ならぬ」に返す

私は閉じこもっていたいと

思った

なんどきも自分の周囲をグルグルと廻っている

汚いサタンを葬り去らない限り

きっとこのまま

真っさらな自分という人間とは

出会えないような気がしたので

いっそ、サタンを殺すことにした

土壺の深い底に立ち

縁を見上げると

空が見える

風が吹いていて

長い枝から伸びた新緑が

のびやかに揺れている

這い上がる力がない訳ではないことは

誰より自分が知っている

孤独が好きだと言えるほど

強くもないし

望んでもいないのだが

しかし

語るものがおとぎ話ではいけない

せめて血と肉と

私の体を通り過ぎたものが

欲しい

じっと

座して伏して

暗闇のなかの正体を知る

いまは

目をつむって眠りにつこう

果たして

消えた夢

沈殿した夢のなかの風景は

いつもいつも

一点を凝視している

悲しいくらいに愚直な

18歳の私だった

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