南回帰線

貿易風の吹く6月の丘に

ハイビスカスの花が咲き

一人の少年が

ずっと海をみつめている

南回帰線の島

椰子の森がざわめき

海鳥は

滑るように飛んでゆく

少年は背筋を伸ばし

立ち尽くす

以前

カヤックを削りだし

夜の沖へ出た

星を見失い

それでも漕いだが

波が荒れて怖くなり

凪が続くと怖くなり

行く先がみえず

島へ引き返した

少年は島を捨てたかったのだ

あの遠い

いつかの旅人が教えてくれた

北の国へ憧れた

北の国には

黄金が眠り

美しい少女と

そして

北の国には

雪が降るという

少年は

島で

いつも船をつくっている

貿易風が彼にささやき

ハイビスカスの花が

彼に寄り添うように

咲く

少年はただ無言で

やがて

絶望を追い払うと

毅然としたまなざしで

海の向こうの希望を

いつまでも凝視した

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