「青い瞳のステラ」 大好きだった故・柳ジョージさんに捧ぐ

伊勢佐木町の賑わいを眺めながら、

R16を南下する。

山元町のトンネルを抜け、幅広の道に出る。

両側には商店街が続き、

左にあこがれのリキシャルームの看板がみえた。

本牧だ。

いつか彼女ができたら、ここへ誘いたい。

いつもそう思っていた。

右にリンディ、派手なディスコ。

ここはたまに来るが、フロアの真ん中にアメ車が鎮座する、

それ以上でも以下でもない、赤い色が似合うディスコだ。

僕は小湊の信号を過ぎたあたりからスピードを落とし、

フェンスが続く芝生の向こうをじっと凝視する。

45番のペンキの札が近ずく。

その立て札が立つ芝生の家に、あの子がいる。

名は知らない。

ブロンドの髪を長く伸ばし、

そばかすの細面の顔に、

澄んだ青い宝石のようなまなざしで、

いつもフェンスの外側をみつめている。

僕は彼女のことを、勝手にステラと名付けた。

ステラは真っ白いペンキの家に、

軍人の父と教師の母親と、まだ幼い弟と、

3人で暮している。

ステラはいつも黄色のワンピースを着ている。

開いた胸元に、

きらきらと光るペンダントを

いつもぶら下げていた。

僕のカーラジオからは、ブルースが流れる。

FEN放送は、たまにこんなのも流すのか。

そんなことをぼんやり考える。

この歌は、黒人の労働の辛さを語った悲しみの歌。

南部テネシーあたりの歌だろう。

ゆっくりと流れる景色のなかに、

遠く貨物船が煙を吐いている。

運良く今日は赤信号にひっかかる。

45番の家の正面。

僕はフェンスの向こうをじっとみる。

ステラの弟が庭のプールではしゃいでいるのがみえた。

傍らで母親が、

じょうろで弟の頭に水をかけてあげている。

光る芝生と水のきらめき。

極彩色のビニールプールと、

淡い色の洗濯物が、

夏の陽ざしに鮮やかさを増す。

一度、ステラを

根岸の競馬場跡の近くの喫茶店で

見かけたことがある。

このときはどきどきしたが、

なんてことはない。

ステラはボーイフレンドと一緒で、

あのいつものワンピース姿ではなく、

派手な化粧にTシャツ姿で、

きらきらと輝くペンダントはしていなかった。

ステラとすれ違うとき、

彼女はふっと微笑んで、

どうした訳か、

僕にキャンディをくれた。

そのときのキャンディを包んでいた英字の新聞紙は、

まだとってあるというのに…

あれから一ヶ月。

ステラをみかけない。

この道を、昼夕と2度通るが、

今日もステラはいないようだ。

あの派手な化粧とボーイフレンド…

ステラが何処へ行ったのか、

誰か知らないかい。

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