かつて僕は野党一辺倒だった
アナーキストを気取ったこともある
いや ただの不良だ
父は公務員
規則正しい仕事と生活を繰り返していたように思うが
ものごころつくようになった頃から
彼の粗(あら)がぼんやりみえてきた
彼は始終僕をうっとうしい目でみていた
そんな父が僕に初めて中古車を買ってくれた
20万円の疲れたクルマだったが
僕はいつもそのクルマを撫でるように磨いた
父がクルマを買ってくれたのは
ストライキのときは必ず父を乗せて川崎の職場まで送ること
そういう条件だ
そんな動機はそのときどうでもいいように思えた
父は選挙のとき野党に一票を入れたぞ
と必ず発表する
父は戦争中はソ連にいたので
日本に帰ったらどこも働かせてくれなかったそうだ
向こうでマルクスを叩き込まれたので
きっと誰もが敬遠したのだろう
ああ
気持ちのいい秋晴れの朝
僕はクルマでバイパスを走る
もうワクワクするでもなく
ドイツ製の手堅い小型車で
安全が第一だと念じている
あの頃より僕は少し利口になって
確実に太って 皺だらけになって
後ろに年頃の娘を乗せている
この子の未来に何があるのか
この空から続く世界は
これからどうなっていくのか
僕は確実に臆病になってしまって
僕はもはや野党など信じていなくて
このつまらない世界でも
相変わらず
素敵な秋の日はくるのだ