不思議な一日(その4)

(前号までのあらすじ)

奇妙な天気の朝、私は森へと導かれた。そこには自称妖精だという小さなお爺さんが水浴びをしていた。、私はそのお爺さんと話し込むことになる。

「で、ヤマダ電機で何を見たんですか?」

「そこじゃよ、肝心なのは!」

「ワシがパソコンをじっと眺めていると
店員らしき若者がやってきて、いきなりわしに説明を始めたんじゃよ」

「はあ、それで?」

「それでじゃ、話を聞いているうちにこれは天上界でも使っている
便利箱の初期型と似ておるな、と分かったんじゃよ」

「便利箱?」

「そうじゃ、便利箱。この箱はもうわしが若い頃からあるんじゃが
とても重宝しておる。いまじゃホレ、ここにもあるがなぁ」

お爺さんは腰の布をめくると、一枚の布っ切れを見せてくれた。

「これは何ですか?」

「これが便利箱の進化したものじゃよ」

「はあ?」

「ほれっ!」

お爺さんから布っ切れを受け取ると、私はそのペラペラしたものを
ひっくり返したりクシャクシャにしたりして、よくよくその布を確かめた。

何の変哲もない白い布だった。

「若者よ、その布に向かってお祈りをしたまえ」

「ええっ?」

「お祈りじゃよ。いやちょっと待て!それはちと早いな。やめておくか。
そうじゃ、おぬし、いま好きな人はおるかのぅ?」

「あっ、はい いますが。それがなにか?」

「その人はいま何処におる?」

「今頃は大学で授業を受けている頃だと思うのですが?」

「そうか、じゃその人がいま何処におるかとおぬし、いまアタマの中で考えるんじゃよ!」

「考えています。それが何か?」

「ホレ、見てみぃ!」

「わっおー!これは凄い!」

白い布っ切れには、あこがれの玲奈ちゃんが映っていた。しかも動いている。
動画だ。大学の教室らしき所で、教壇に向かって真剣なまなざしをしていた。

布を持つ手が震えた。

「お爺さん、これ、凄いですよ。一体どうなっているんですか?」

カメラワークもすこぶる良かった。

「簡単じゃよ、アタマから発するイメージ・エネルギーが瞬時に現地に飛び、
時空を超えて撮影した映像をここに映し出すという訳じゃよ、ほほほほほっ。
しかも、この彼女の姿はリアルタイムじゃぞ!」

「ということは、時間差もない?」

「そういうことじゃな」

「では、時空を超えるということは時間を移動することもできる訳ですか?」

「もちろんじゃよ」

お爺さんは細い目を一層細くして、ニヤニヤし始めていた。

「じゃ、先生!」

「はっ?先生とはわしのことかいな?」

「そうです、先生!」

「その先生のわしに何か用かな?」

「ええ、先生! これで私の将来も見ることができますか?」

「ああそんなことか。簡単じゃよ」

「じゃあ、是非みせてもらいたいのですが?」

「お安いご用じゃ。で、おぬし、覚悟はできておるかの?」

「ああ、覚悟じゃ。人生はな、良いことばかりとは言えぬ。
知らぬが華ということもあるのじゃよ」

「それは分かっています! しかし、私は玲奈ちゃんと結婚できるかどうかそればかりが気になって仕方がないのですよ!」

「ほほぉー」

先生は口をへの字に曲げたまま、難しい目をして掌から落ち葉をひらひらさせていた。

「先生!」

つづく

「純喫茶レア」(その3)

「いいとこ、あるんだ」

「どこ?」

「うん、最近できた喫茶店なんだけどさ」

「ふーん」

二人はとぼとぼ歩き出した。

本屋の角の脇道を入り、少し行くと
白くまぶしい建物が目に入った。
店の入り口にはお祝いの花がいっぱい飾ってある。

ここか、と俺は思った。

白い壁には銀色の流れるような文字で
「レア」と書いてあった。

その上には青いプレートが貼ってあり
純喫茶と書かれていた。

「ここなんだけど、入ってみる?」

「うーん、どうしよう。高校生がこんな所へ入っていいの?」

「わかんない。けどいいんじゃん!」

俺が意を決して入ると、彼女も後についてきた。

店内は広く、壁、天上、総てが白で統一されていた。
四隅には小さな噴水があり、小さな子供の彫り物が飾ってあった。

「いらっしゃいませ!」

白いワンピースを着たウェイトレスが、俺たちを大理石のテーブルへ案内してくれた。

革張りの白いソファーに腰を下ろす。

「なんかすげぇなー!」

「うん、いいの、こんな所へ来て?」

「いいと思うよ。だって純喫茶なんだもん」

「純喫茶ってなに?」

「うーん、知らないんだよね」

「なにそれ!」

「あっ ゴメン! 俺もよく分からないんだけど
コーヒーかなんかそういうもの、飲めるみたいよ」

「そう」

彼女はそわそわと落ち着かない様子で、あたりをキョロキョロと見ている。

まわりをみると、俺たちが最年少の客だとすぐに分かった。

俺の嫌いなアイビー・ルックのカップルが多かった。
みんな慣れた仕草で、夢中で話している奴もいるし、
黙ってお互いを見つめ合ったりしているカップルもいる。

「未成年がこんな所へ来ていいのかな?」

「もう入っちゃったモン、な?」

「まあ、そうよね」

「いらっしゃいませ!」
ウェイトレスが真っ白いメニューを私と彼女に差しだし
水の入ったグラスをふたつ、テーブルに置いた。

「何に致しましょう?」

どっと冷や汗が出てきた。

メニューを開くとしばらく何が書いてあるのかよく分からなかった。

(落ち着け)

やっと、コーヒーという文字が見えた。

やったね、と俺は思って
「コーヒーちょうだい、知子は何にする?」

「レモン・スカッシュ」

案外、知子のほうが落ち着いている。

つづく

※この話はフィクションです

純喫茶「レア」(その2)

(前号までのあらすじ)

イヤイヤ高校生活におくる俺は、いつものように地元に帰ると息を吹き返す。パチンコ屋、ボーリング場をウロウロして時間を潰す毎日。

俺はつぶやきながら、なあとヒロシを呼び止めた。

「なあ、ヒロシ」

「ああ?」

「あのさ、レアって店、知ってる?」

「ああ」

「あそこ、どうゆうとこよ?」

「純喫茶じゃねえの?」

「純喫茶って何よ?」

「うーん、わかんねぇ」

「コーヒーでものむとこなのかね?」

「わかんねえ」

「バッカー!」

俺はイライラしてきた。

コーラを飲みきると席を立ち
じゃーなとみんなと別れて
再び駅のほうへ向かう。

ポケットの千円札を確かめる。

俺は考えながら歩いた。

駅が近づいてくる。

電車がくる時間だ。

俺はたばこを投げ捨てると、ある迷い事についての腹を決めた。

改札から出てくる大勢の人の顔を見ていると
なんだかアタマがズキズキしてきた。

手のヒラが汗ばんでいる。

遠くのほうから女の子のふたり連れが歩いてきた。
ふざけながら歩いてくるのが分かる。
白いブラウスにプリーツの入った長い紺のスカート。

「来た」と俺は心のなかでつぶやいた。

ふたりは俺と目が合うとふざけるのをやめ、
やがてひとりがこっちへ目配せをして
「うまくやんなよ」と言い
バイバイと小走りに改札を抜けて
エンジンがかかっているバスに飛び乗った。

「よう!」

「待っててくれたの?」

「いや、ちょっと用があったんだけど
時間をみたらなんかさ、いるかなって思って」

「ありがとう」

「いいとこ、あるんだ」

「どこ?」

「うん、最近できた喫茶店なんだけどさ」

「ふーん」

二人はとぼとぼ歩き出した。

本屋の角の脇道を入り、少し行くと
白くまぶしい建物が目に入った。
店の入り口にはお祝いの花がいっぱい飾ってある。

ここか、と俺は思った。

白い壁には銀色の流れるような文字で
「レア」と書いてあった。

つづく

※この話はフィクションです

不思議な一日(その3)

(前号までの話)

ある朝、私は森へでかけた。すると、身長60センチ位の小さな爺さんが水浴びをしていた。彼は自分を森の精霊だといい、私と話し込むこととなった。

「ところで若者よ、街はどんな様子じゃ? 最近はパソコンなんていうものができて
たいそう便利になったそうじゃな?」

「ええ!お爺さんよく知っていますね!」

「いや、この間の夜ちょっと街へ降りて、ヤマダ電機っていう所へ行ってみたんじゃ」

「はぁ、はあ? ヤ、ヤマダ電機ですか? しかもそのカラダの大きさでですか?」

「イヤ、それはない。わしらはカラダの寸法をいくらでも変えることができるんじゃよ」

「それは凄いですね! で、服はそのままですか?」

「それもない。ユニクロじゃよユニクロ!」

「えっ、ユニクロですか?」

「そうじゃ、あそこのフリースは暖かいのう!」

「しかしお爺さん、ここからユニクロに行くまでこの格好で
行ったんでしょ?」

お爺さんはまたアタマをつるっと撫でると

「君という若者はいちいち話が細かいな。そんなことでは
この物語は続かんぞ!」

お爺さんの目がつり上がってきた。

「スイマセン!」

私は話を続けた。

「で、ヤマダ電機で何を見たんですか?」

「そこじゃよ、肝心なのは!」

「ワシがパソコンをじっと眺めていると
店員らしき若者がやってきて、いきなりわしに説明を始めたんじゃよ」

「はあ、それで?」

「それでじゃ、話を聞いているうちにこれは天上界でも使っている
便利箱の初期型と似ておるな、と分かったんじゃよ」

「便利箱?」

「そうじゃ、便利箱。この箱はもうわしが若い頃からあるんじゃが
とても重宝しておる。いまじゃホレ、ここにもあるがなぁ」

お爺さんは腰の布をめくると、一枚の布っ切れを見せてくれた。

「これは何ですか?」

「これが便利箱の進化したものじゃよ」

「はあ?」

「ほれっ!」

つづく

純喫茶「レア」

高校が終わると、すぐに席を立ち
走って校門を駆け抜ける。

小田急線に飛び乗り、町田で降りると、ため息が出た。

ぐーぐーと鳴る腹に、いつもの立ち食いそば屋で、天ぷらそばを流し込む。

そして、チョーランをはためかせ横浜線で地元に帰る。

駅前でいつもの地元の仲間を見かける。

やっと気持ちが解けてくる。

まだ、時間があるので「キリン」に飛び込んで学ランを脱ぎ

セブンスターに火を付けて、台を見て回る。

別に出ても出なくてもいいのだが、この儀式をしないことには落ち着かない。

玉を打っている時間が本当の自分に戻る為に必要な時間だった。

C・C・Rの「コットンフィールズ」が大音量の割れた音質でがなり立てる。

出なければそれで良し。
たばこを咥えながら
そのまま「シルバーレーン」に歩き出す。

顔見知りに会うたびに「よう!」とお互いに手を合わせる。

「シルバーレーンだろ」と言われる。

通りを曲がると
大きなピカピカの建物が鎮座する。
扉を開けると、ピンが倒れる乾いた音が響いてくる。
中は人の熱気で暖かい。

自動販売機でコカ・コーラの瓶を買い、ふっと一息つく。

プラスチックの椅子に腰掛け、前のカウンターに足を投げ出す。
セブンスターに火を付ける。

ボーリングは俺にとってどうでもいいのだ。

ジュークボックスをのぞいて
100円を入れ、いつもの曲をチョイス。
そして、椅子に戻ってコーラを飲む。

「イエロー・リバー」が流れると
どこからともなく、いつもの顔が集まってきた。

「アキラ!今日は学校行ったのかよ?やけに早いじゃん」

「行きましたよ!」
とおどける。

立ち上がって振り返ると、ヤスが笑っている。
目が充血していた。

「ヤス、やっただろ?」

「何を?」

「ええ、とぼけるなよ! ボンドだよ」

「やってネエよ、なんちゃって」
彼の足元はふらついている。

「あのよ、おまえホント骨ボロボロになるよ!」

ヒロシとカズオにも聞く。

「ヤスさぁ、あのオンナに振られたらしいよ。で
こないだ決めた掟破りっていゆう訳!」

「ああ、そう」

俺は心なく答えると元の場所へ座り込み、前を見た。

4人でボーリングをしているグループを眺めていた。
オトコ二人は髪の毛をキッチリ短く切り
ボタンダウンのシャツにステッチの入ったピシッとしたスラックスを
はいている。
オンナはこれも最近よく見かけるミニスカートに綺麗な色のトレーナーを
着ていた。

「アイビーのにいちゃんとねえちゃんか」

俺はつぶやきながら、なあとヒロシを呼び止めた。

「なあ、ヒロシ」

「ああ?」

「あのさ、レアって店、知ってる?」

つづく

※この話はフィクションです。

不思議な一日(その2)

前号のあらすじ)

ある朝、私は森で小さなじいさんと出会った。

つづき

「失礼ですが、おじいさんはここで何をしているのですか?」

髭をさすりながら彼はほい来たと言う顔でこう言った

「わしはこの山の精霊じゃよ。知らんのか?」

「知りません」

「そうか」

じゃあ教えてあげようとおじいさんは私の前にヘタッと座り込んだ

禿げたアタマを手でツルンとやりながら目をつむって

「そうじゃな。その昔、この山のほうぼうにはわしらの一族は住んでおったんじゃよ

それは愉快、平和じゃったよ。ところがある日、人間どもがわしらが

暮らしていた山奥まで来おってな、わしらを見たとたんにそりゃもう

大騒ぎじゃったよ。それからわしらは逃げるようにして、もっと奥の

山へと逃げてちりぢりばらばらになっしもうたわい」

私が耳を傾けてじいさんの顔をじっと見ていると

「わしか?ああわしは逃げんかった。わしはもう500年も生きちょるし

すっかり歳も喰ってしもうた。もうどうでもええと思って一人でこうして

暮らしているという訳じゃ」

私は夢でも見ているのか?と自問しながら耳をぎゅっとつねってみた。

「イタタタタっ」

「どうしたんじゃ?」

「いや、なんでもありません」

「おじいさん、いま精霊っていいましたけれど、そのせいれいって一体なんなんです

か?」

「ほいきた」

じいさんはニコニコしながら、また禿げたアタマをつるっとなでた。

「精霊っちゅぅのはな、簡単にいうとだな森の神様じゃ、なんと

森の神様じゃぞ」

じいさんは曇りがちな空を見上げ、細い目をした。

「神様なんですか?」

「そうじゃよ」

「わしらの仲間はその昔、空から降りてきたんじゃ」

「はぁ」

「空にはそのぅ大神様という偉いお方がおっての。その大神様の命をたずさえ

わしらはこの地に降りてきたという訳じゃよ。分かるかな?」

「あっ、はい」

「で、その大神様の命というのは何なんですか?」

私の質問に、精霊じいさんは大きく首を振った。

「それは言えんよ、大事な秘密じゃからなほほほほっ」

つづく

不思議な一日

霞がかかった秋の日の朝は

まるで春を思わせる のたりで

ちょっとあったかいのがうれしい

足は山へ奥へと進んでゆく

紅葉した葉に生暖かい風が通りすぎる

不思議な朝だった

霞は薄いカーテンのように

通り過ぎるとひとつひとつ

目の前の世界は変わり

林のなかの窪みにできた池に

小さな人間が泳いでいた

背の高さはざっと見たところ60センチ位だろうか

白い髭を顎にたくわえた禿げた老人だった

カラダに白い布を巻き付け

それが水に濡れて弛んでいるように見えた

彼はじっとこちらを睨むような顔をしていたが

私が「こんにちは」というとほっとしたような顔をして

白い歯をみせた

「どこから来たのかな?」

池の水で顔を何度か洗いながら

こちらへ近づいてきた

「えっと、そのぅ、気持ちの良い朝だったので
ついふらふらと家を出て裏山を歩いていたら
えーっとここに来ていました」

「ほほぅ」

「失礼ですが、おじいさんはここで何をしているのですか?」

髭をさすりながら彼はほい来たと言う顔でこう言った

「わしはこの山の精霊じゃよ。知らんのか?」

つづく