前号までのあらすじ
(再び南の島で再会した二人は
孤島で一日を過ごす
それは僕にとって
忘れられない日であり
人生における或る決断の
きっかけとなる)
コロールに戻った僕たちは
一旦シャワーを浴びに
それぞれの所へと帰った
僕は部屋で
ジェニファーのことばかりを
考えていた
そして、あのゴーギャンのことも…
ポロとスラックスに着替え
再び彼女に会うために
ホテルのフロントに寄る
と、例の金髪女性が
「ジェニファーはとても素敵な子よ、
そしてロマンチック
あなたにピッタリだと思うわ」
と言って鍵を受け取る
とっさに僕は
「ああ、全力を尽くすよ」
と笑顔で返す
ホテルの前で
僕らは待ち合わせていた
今度は以前と違って
二人して堂々とでかけられる
木陰のベンチに寝転がっていると
ジェニファーの赤いTOYOTAが
ホテルの前に滑り込む
運転席の彼女は
赤い花をあしらったTシャツに
ホワイトジーンズをはいていた
「今度は僕が運転しよう」
「OK、頼むわ」
エアコンを切り
窓を全開にして
僕たちは
南へクルマを走らせる
遠くのリーフから
珊瑚礁にぶつかる波が夕日に光る
島の突端のカープレストランに着くと
今日はもうお客さんはいなかった
それは
波打ち際のガランとした駐車場を見れば
すぐに分かる
打ち寄せる波に揺れるはしご階段を降り
船内へ入ると
あのときと同じように
窓際のテーブルに座る
ジュークボックスから
カーティス・メイフィールドの嘆くような
独特の高い歌声が響く
僕たちは
簡単な食事を済ませ
ゆっくりと
バーボンを飲むことにした
話は、仕事、家族、都会と自然
そしてお互いの人生観へと移る
3杯目のバーボンが空になったとき
ふとジェニファーが
東京に好きな子はいるの?と
僕に尋ねる
「好きな子?
それは何人もいるさ
だけどそれだけさ
後は何もない」
それはloveではなく
likeだと彼女に説明する
「それは
あなたがやさしい証拠
寛容なのね」
彼女が皮肉混じりに笑い
バーボンの入ったグラスを置いて
宙をみつめる
いや、違う、
ジェニファー、それは勘違いだよ
僕は
改めて、彼女の魅力的な第一印象
そして彼女に対する熱い想いと
いまの素直な気持ちを話した
過去に幾度か、こうした場面で
自分の気持ちをはっきり伝えられず
いわゆる恋の敗者になっていたので
僕は酔いをできるだけ醒まして
冷静にゆっくり、すべてを話すよう努めた
そして
なんとか話し終わると
僕はぐったりして
窓に目をやる
あのときと同じように
ブイが
黒い波間に揺れて光っている
再び、酔いがまわってくる
ジェニファーが、突然隣に座った
そして僕にキスをすると
「あなたは誠実な人ね」と言った
「ありがとう」
それから僕たちは
時間を忘れるほどに
ずっと抱き合っていた
「一緒に暮らしてみようか?」
「それも、いいかもしれないわね」
大海原に浮かぶ小さなカヤックのように
僕の行方もまた大きく揺れる
或る出会いがあって
それが僕の生きる価値と重なったとき
きっとそれが
進むべき方向なのだ
二人で店を出ると
信じられないほど明るい満月が
海と遠くの島々を
影絵のように照らしている
南の島独特の
温かいスローな風が
二人の頬を撫でる
(僕とジェニファーの物語が
ここから始まるのだ)
時折
僕のアタマのなかで
ゴーギャンの自画像が
こっちを睨んで
笑っていた
(完)