(前号までのあらすじ)
奇妙な天気の朝、私は森へと導かれた。そこには自称妖精だという小さなお爺さんが水浴びをしていた。、私はそのお爺さんと話し込むことになる。
「で、ヤマダ電機で何を見たんですか?」
「そこじゃよ、肝心なのは!」
「ワシがパソコンをじっと眺めていると
店員らしき若者がやってきて、いきなりわしに説明を始めたんじゃよ」
「はあ、それで?」
「それでじゃ、話を聞いているうちにこれは天上界でも使っている
便利箱の初期型と似ておるな、と分かったんじゃよ」
「便利箱?」
「そうじゃ、便利箱。この箱はもうわしが若い頃からあるんじゃが
とても重宝しておる。いまじゃホレ、ここにもあるがなぁ」
お爺さんは腰の布をめくると、一枚の布っ切れを見せてくれた。
「これは何ですか?」
「これが便利箱の進化したものじゃよ」
「はあ?」
「ほれっ!」
お爺さんから布っ切れを受け取ると、私はそのペラペラしたものを
ひっくり返したりクシャクシャにしたりして、よくよくその布を確かめた。
何の変哲もない白い布だった。
「若者よ、その布に向かってお祈りをしたまえ」
「ええっ?」
「お祈りじゃよ。いやちょっと待て!それはちと早いな。やめておくか。
そうじゃ、おぬし、いま好きな人はおるかのぅ?」
「あっ、はい いますが。それがなにか?」
「その人はいま何処におる?」
「今頃は大学で授業を受けている頃だと思うのですが?」
「そうか、じゃその人がいま何処におるかとおぬし、いまアタマの中で考えるんじゃよ!」
「考えています。それが何か?」
「ホレ、見てみぃ!」
「わっおー!これは凄い!」
白い布っ切れには、あこがれの玲奈ちゃんが映っていた。しかも動いている。
動画だ。大学の教室らしき所で、教壇に向かって真剣なまなざしをしていた。
布を持つ手が震えた。
「お爺さん、これ、凄いですよ。一体どうなっているんですか?」
カメラワークもすこぶる良かった。
「簡単じゃよ、アタマから発するイメージ・エネルギーが瞬時に現地に飛び、
時空を超えて撮影した映像をここに映し出すという訳じゃよ、ほほほほほっ。
しかも、この彼女の姿はリアルタイムじゃぞ!」
「ということは、時間差もない?」
「そういうことじゃな」
「では、時空を超えるということは時間を移動することもできる訳ですか?」
「もちろんじゃよ」
お爺さんは細い目を一層細くして、ニヤニヤし始めていた。
「じゃ、先生!」
「はっ?先生とはわしのことかいな?」
「そうです、先生!」
「その先生のわしに何か用かな?」
「ええ、先生! これで私の将来も見ることができますか?」
「ああそんなことか。簡単じゃよ」
「じゃあ、是非みせてもらいたいのですが?」
「お安いご用じゃ。で、おぬし、覚悟はできておるかの?」
「ああ、覚悟じゃ。人生はな、良いことばかりとは言えぬ。
知らぬが華ということもあるのじゃよ」
「それは分かっています! しかし、私は玲奈ちゃんと結婚できるかどうかそればかりが気になって仕方がないのですよ!」
「ほほぉー」
先生は口をへの字に曲げたまま、難しい目をして掌から落ち葉をひらひらさせていた。
「先生!」
つづく