化学反応

グラスを持つ

スッと伸びる透けた指先を

いままで見たことがなかったので

ドキンとした

つまらないかなと思いながらも

ジョークをひとつ

その振り返る笑顔に際だつ

唇のかたち

それから或る日

駅の改札で君を待っていたら

いつもジーパンなのに

あれ めずらしく

フレアのスカートが揺れて

ボクの心が揺れて

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或る日

広く どこまでも遠い

あれは草原だろうか

風が強い日だった

耳のあたりが騒々しいほどに

草が木々がなびいている

ちょうど山並みが切れたあたりに

薄水色の空が貼り付いている

底辺をスパっと切ったような

雲がひとつ

いつ頃からだろうか

私はその雲を眺めている

19歳の春

翌年 私は横浜の街を出た

何でもない日だったが

その日のことを

憶えている

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世界の片隅から

陽が昇ると

太陽神はほうぼうを見渡し

誰それが何処でなにをしているかを

瞬時に知ることとなる

そして一息吐くと海神と世間ばなしをするが

つい愚痴をこぼしてしまう両者は

笑いながらも 夕方には

また深刻顔になってしまうのが

太古からの日課のようなものだった

やがて星々がまたたき始めると

月神が山神と話し込んでしまい

遠い銀河系の噂を小耳に挟んだりして

夜明けが遅くなったりするものだから

困ったものだと

朝つゆがぼやく

世界の営みはいつも

危ない綱渡りで成り立っている

放射能のいつまでも消えない恐怖が

一体どこにあるのだろう とか

酸素と二酸化炭素と窒素のバランスは

充分に保たれているか とか

ああ

またあの山を削りこの川を汚して

海まで毒を垂れ流しか とか

一体人はなにをどこまで傷つけ

いやそれが分からないほどに

追い詰められているということなのか

たとえば

浜辺で気持ちよく昼寝をしているウミガメに

誰がヒモを縛っていいと言ったのだろう

大統領や首相なんぞが偉いのでもなんでもない

将軍が勢力図を動かしているのではないことは

自明の理だ

だからミサイルが原爆が

誰が誰に

なにをしたかと問うてみたことがあるか

ではと

国境を取っ払って人種をまぜこぜにして

世界の平均化か

だが行き着くところ

結局私たちは

オトコとオンナとどちらが得か 強いかとか

つい下世話になってしまうのだが…

陽が昇ると

太陽神はほうぼうを見渡して

誰それが何処でなにをしているかを

瞬時に知ることとなる

そして一息吐くと海神と世間話をするが

つい愚痴をこぼしてしまう両者は

笑いながらも 夕方には

また深刻顔になってしまうのが

太古からの日課のようなものだった

やがて星々がまたたき始めると

月神が山神と話し込んでしまい

遠い銀河系の噂を小耳に挟んだりして

夜明けが遅くなったりするものだから

困ったものだと朝つゆがぼやく

世界の秩序は混乱していて―

宇宙の意志は

いま本当に困っているに違いない

※本稿は2006年10月にmixiに掲載したものを改編したものです。

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小舟

小舟に揺られて

白い浜辺に辿り着いた

刺すような日射しで

頭がクラクラする

肌が焼けただれ

水筒の水も切れて

船では

数度、嵐にも遭った

しかし

もう駄目だ、とか

僕は決して思わなかった

だって

僕は産まれてから

ずっと奴隷だったんだ

そこを逃げ出したんだよ

僕にとって

そんな希望に充ちていることはないと

君はそう思わないかい?

8日目の朝

憧れの島影が見えたとき

その美しい島から吹く風が

僕を森へと導いてくれたんだ

白い砂浜へ船を着け

奥へ奥へと僕は進む

青い森さ

「おーい」といくら叫んでも

誰も応えない

なのに

丘にせり出して建っている

小さな宮殿に

やはり

眠り姫と財宝は眠っていたんだ

伝説が目の前にある

そこには

水や果物もたっぷり

溢れるようにあるんだ

こうして僕がみつけた

地図にない

南の果ての

伝説の島だが

もう僕の事は誰も知らないし

このことを教えてくれた老人も

もう死んでしまっていた

だから

この島の事は

誰も知らないのさ

僕はね

ここから

新しい物語をつくろうと

そう思ってね

相変わらず

眠り姫は起きてはくれないが

魔法を解く方法は

必ずいつかみつかるハズさ

僕の自由は

きっといつか

世界を変える

少しづつだけれどね

さあ

だから今度は

君が君の小舟を

探さなきゃね

ウィル・ユー・ダンス(Will You Dance)

透き通る風の丘に立って

海を眺めることは

たとえば

過去を振り返ることに似ている

のたりと揺れる波間に身を委ねると

心持ち穏やかになれる気がする

革命などと大それたことでなく

ただ自由を求めてさまよい

或るとき

僕の闘争などと呼ばれ

ではと姿勢を変え

自分に素直に書き

本心を歌い

信じることを描いてはみたが

生きてきた時間の大半を費やしても

やはり

夢が破れたことに違いはないんだと…

だが

こうして風に吹かれていると

そうだ

今夜はあいつと酒を飲もうと

ちょっと笑えてくるから

人生は不思議だ

あの頃

好きな娘がいるんだろと言われたが

僕は結局シラを切り通すことにした

でないと

あの天使のような娘をひとり

つまらない巻き添えにしてしまうような気がして

そう結論付けたのだが…

それが正しかったのかどうかなんて

今更誰に分かるものでもない

時は巻き戻せはしないから

やはり

人生は不思議に充ちているんだと…

さあ

せめて今宵は踊ろうじゃないか

あの娘に似た人を探しに

あいつと町へ出よう

そして

さんざんへべれけに酔って

ちょっとイカレた調子で

さあ

僕とダンスでも踊りませんか!

…とね

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ピアノマン

青春のときの夢は

確か一流になること

だったよね

苦いビールを何杯か飲み干してから

キミが昂ぶり

とても大きな夢を話していたことを

覚えている

一流になれば

もちろん名が知れて

そのうち大金も転がり込むってね

でもあれから遠い月日が流れて

いまじゃキミも年をとった

相変わらずあの店でピアノを弾いているけれど

キミが草々金持ちのようには見えないし

有名になったという噂も聞かない

今日もキミのファンで店はいっぱいだ

キミのピアノの音はとても落ち着くし

ときに驚くほどエキサイティングだ

店がずっと廃れないのも

みんなキミの腕を目当てに

顔を出すからなんだよ

あれからビアノの音が幾度も変化し

レパートリーも増えたってね

試行錯誤を繰り返し

キミはキミなりに

一流をめざしたのだろう

さて

今日の帰り際の一曲に

私は嬉しくて涙が溢れたが

そんなセンチメンタルをいちいちキミに伝えるのは

止めておこう

キミはピアノマン

いまじゃ一流だよ

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上を向いて歩こう

あばら屋だけど

まぎれもなく我が家だった

或る年の元旦の朝に

女性とその子供と思しき男の子が尋ねてきて

母は驚き

つつましいおせちを出して

精一杯もてなした

お姉ちゃん あの人たち誰?

知らない人

ふん

男の子は乱暴で

僕の戦車のプラモデルを

壁に投げつけた

松飾りがとれる頃

父と母の怒鳴り合う声が聞こえた

それは幾日も続いて

それでも姉は

いつもと変わらず

小学校へと走って行った

僕が夜中に目覚めると

別れる そしてどうする

そんな父と母の ののしり合いが聞こえた

僕はお姉ちゃんの手をぎゅっと握った

お姉ちゃんの寝息が聞こえた

お父さんかお母さんがいなくなるってどういうことだろう

僕はこのウチにいられるのかな

いまの学校へ通えるのかな

みんなバラバラになるのかな

僕はひとりになっちゃうのかな

ひとりになったらどうしたらいいんだろう

僕は怖くて朝まで起きていた

そして

学校の裏庭で何日か泣いた

それからいろいろな事を考え

それは浅はかではあったけれど

僕は強くなると決めた

それから何回も

泣きたいことがあったけれど

せめて

上を向いて泣こうと…

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夜の饒舌

常識や思い込み そして哲学が崩れ落ち

神さえ疑わしい日から

幾年 幾月 が過ぎ

やっと

ああそうだ 月って綺麗だなと

窓辺にベッドを移し

文庫本のひとつを手に 和室の灯りを消し

すだれ越しに夜空を見上げれば

平安の時代から変わらないであろう

月あかりは穏やかで

雲が流れる様が

ロマンチックなスクリーンのように

饒舌に

思わず本を置いて

見入っていると

どこからともなく

静かに 静かに

草の音 虫の音と

なんと

平和の音 平安の音

幾重に幾重に

それは夜の指揮者が不在でも

月夜の晩に必ずひらかれる

夜会

こんな世の中だけど

なんだか分からない程に

疲れているけれど

このひととき

この瞬間

平静の瞬きに出会えて 

すべてのなにかが整ったのだろう

それを知り得て 

やっと受けとめることができた

いまは

生きていることのみで

ありがとう ありがとうと

なにに

誰にと

やはり…

神に祈ろうか

駆け抜ける詩人

悲しいときは

さめざめと泣ければ

それでいいんだよ

虚しい心を

そっと代弁してくれるような

そんな歌

人生のハレの日には

歓びを胸をいっぱいに

満たしてくれる

そして

やさしく包んでくれれば…

詩人はいつも

7番線のホームに立ち

ビルの谷間を歩き

地下鉄東西線に乗って

野山を吹く風のように

海を渡り

砂漠を横断し

ヒマラヤで眠る

そして空に昇り

天を垣間見る

ときに詩人は

天の川に身を浸して

ほうぼうを思索し

あなたの夢に

すっと入り込むんだ

しあわせの朝が

あなたにも

訪れますようにとね

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ミスター・アーサー

ちょっと聞いてくれないかな、

もしも、僕が大富豪の御曹司だったら、

親に言われるままの政略結婚を拒否できるかって

話なんだけどね。

資産30億。

この膨大な資産の受け取りを拒否してまで、

恋に落ちるに値する女性に出会ったら?

実はそんな女性がいるんだ。

生涯二度と出会うことのできない、

女神のような慈悲と美貌を兼ね備えていて、

なんと僕を愛していると言うんだぜ。

もちろん、僕はそれ以上に彼女に惚れているけどね…

さあ、これから僕は、

運命の天秤に乗って、人生の賭けをする。

あっ、僕の名はアーサー。

そう、ミスター・アーサー。

どうしようもない男さ。

毎日いろんな奴と楽しくやって、

不自由なことなんて、なにひとつない。

そんな僕が悩みを抱えるなんて、

考えもしなかったよ。

人生っていうものを、

深く考えたことがないんだ。

そんな訳で、

僕は初めて不思議な息苦しさを感じている。

これまで自由奔放にやってこれたのも、

これから適当に楽しむためにも、

親の言い付けは守らなきゃ…

いや、そうじゃない、

だから、僕は彼女に言ったんだ。

「僕はこの街が好きなんだよ、

君が望むニュージャージーへ移る、

なんてそれはできない相談だ。

僕はこの街でしか生きてゆけない。

なあ、わかるかい。

俺は、アーサー。

ミスター・アーサーなんだ。

そう言って、僕は人生の賭けをする。

馬鹿だろう。

下らない男さ…

だって、

この話はifじゃない。

もしもの話でもなく、

本当のことだからさ…

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