前号のあらすじ)
ある朝、私は森で小さなじいさんと出会った。
つづき
「失礼ですが、おじいさんはここで何をしているのですか?」
髭をさすりながら彼はほい来たと言う顔でこう言った
「わしはこの山の精霊じゃよ。知らんのか?」
「知りません」
「そうか」
じゃあ教えてあげようとおじいさんは私の前にヘタッと座り込んだ
禿げたアタマを手でツルンとやりながら目をつむって
「そうじゃな。その昔、この山のほうぼうにはわしらの一族は住んでおったんじゃよ
それは愉快、平和じゃったよ。ところがある日、人間どもがわしらが
暮らしていた山奥まで来おってな、わしらを見たとたんにそりゃもう
大騒ぎじゃったよ。それからわしらは逃げるようにして、もっと奥の
山へと逃げてちりぢりばらばらになっしもうたわい」
私が耳を傾けてじいさんの顔をじっと見ていると
「わしか?ああわしは逃げんかった。わしはもう500年も生きちょるし
すっかり歳も喰ってしもうた。もうどうでもええと思って一人でこうして
暮らしているという訳じゃ」
私は夢でも見ているのか?と自問しながら耳をぎゅっとつねってみた。
「イタタタタっ」
「どうしたんじゃ?」
「いや、なんでもありません」
「おじいさん、いま精霊っていいましたけれど、そのせいれいって一体なんなんです
か?」
「ほいきた」
じいさんはニコニコしながら、また禿げたアタマをつるっとなでた。
「精霊っちゅぅのはな、簡単にいうとだな森の神様じゃ、なんと
森の神様じゃぞ」
じいさんは曇りがちな空を見上げ、細い目をした。
「神様なんですか?」
「そうじゃよ」
「わしらの仲間はその昔、空から降りてきたんじゃ」
「はぁ」
「空にはそのぅ大神様という偉いお方がおっての。その大神様の命をたずさえ
わしらはこの地に降りてきたという訳じゃよ。分かるかな?」
「あっ、はい」
「で、その大神様の命というのは何なんですか?」
私の質問に、精霊じいさんは大きく首を振った。
「それは言えんよ、大事な秘密じゃからなほほほほっ」
つづく
